講演記録

<過去の講演記録>

第126回樫の会例会 日時:平成30年1月15日(月)18時30分より

資料配布:【無】

講師:早川 英男 氏(富士通総研経済研究所 エグゼクティブ・フェロー)

司会:鈴木 淑夫 氏(経済学博士・元日本銀行理事)

演題:「2018年の経済展望:求められるマクロ政策の枠組み転換」

 

講師:早川 英男 氏

司会:鈴木 淑夫 氏

 

以下、Pはレジメのページを指す。

スライド P3

2016年の物価低迷は原油価格の下落が要因であるが、消費者物価上昇率はプラス圏で推移しており、デフレを脱却したのは明らか。

ただし消費者物価指数は横ばいであり、近い将来に2%の物価上昇を達成するのは極めて困難。

P4

デフレは脱却したが、成長率は高まっていない。

統計の基準変更で見かけ上の成長率は上振れしている。

P5

2012年の短い景気後退期でも求人倍率は悪化しておらず、高齢化により恒常的に人手が不足する局面へと構造変化が進んできた。

P6

成長戦略は毎年打ち出されているものの、潜在成長率は向上していない。

P7

2016年後半から輸出が大幅に増えているが、これは世界全体の製造業のサイクルが2016年初頭に底打ちし、中国の経済成長と、ICTサイクルが上向きになっていることが主因。日本は資本財を輸出しているため、為替レートの変動の影響は相対的に小さい。

P8

2013年に景気が上昇したのは、公共投資の増加と個人消費の増加が要因。これに対し2016年後半から再度景気が上昇したのは外需主導。好景気にもかかわらず低インフレの状況が再来した。

P9

企業収益は上がっているが、実質賃金は上がっておらず、個人消費低迷の要因となっている。2016年は原油安で実質賃金が増加したが、あくまでも一過性。

P10

企業収益は改善しているものの、収益増加に比べて投資は低迷。

P11

就業者数が増加しているが、これは中高年主婦層がパート・アルバイトとして就業しているから。就業者数の増加は、短時間労働者の増加に支えられている。

P12 – 13

今年も実質賃金はマイナス予想。2017年度は輸出が伸びたが、2018年度は減少を見込む。潜在成長率以上の成長は続くと思われ、労働需給の逼迫が予想されるが、注目すべきは成長率よりも消費者物価の動向。

P14 – 15

日本の人事制度は、仕事の内容を雇用契約に書き込まないのが特徴。これにより企業の人事権が無制限となっていることが日本的雇用の本質であるが、もはや持続不可能な制度である。

また労組の賃上げ要求が低いのも、賃金が上がらない要因。

P16

労使合算した社会保険料は年々増加しており、実質賃金減少の一因。個人消費低迷の要因となっている。

P17

トランプ政権の経済政策は減税以外実現に至っておらず、米国株の上昇はバブル。ただ物価が上昇していないにもかかわらず利上げは実施されており、これがバブル崩壊のリスクを低下させている。

P18

先進国で景気が悪いのは英国のみ。ブレグジットを控え不確実性が高く、賃金は上がらない。ミニスタグフレーションの状況に陥っている。

P19

中国経済は製造業主導から、消費・サービス主導の経済にうまく移行しつつある。ただしリーマンショック対応で過剰投資をした後始末はついておらず、大きなリスクを内包しているという二面性を持っている。

P20

マイナス金利は短期決戦では有効かもしれないが、長期化したことにより年金制度、高齢者、金融機関への影響が大きく出ている。

P21

足元で日銀の債券購入は年間50兆円程度のペースに落ちており、新発国債30兆円との差が縮まっていることから、金融政策の持続性は高まりつつある。米欧は利上げ局面に入っており、日本がイールドカーブコントロールを継続すれば、金融緩和効果が発揮されると思われる。

P25

日銀法では物価安定は手段であり、目標ではないにもかかわらず、物価至上主義となっている。今後インフレとなるか、或いは金利が上昇した場合には、緊縮財政に追い込まれる可能性が高い。

P26

日本の社会保障は高齢者への給付に偏っており、すでに起きてしまった高齢化社会への対応としては正しいといえる。ただし少子化対策として全世代型社会保障は必要であり、そのための財源を示す必要がある。

以 上

 

 

第125回樫の会例会 日時:平成29年11月30日(木)18時30分より

資料配布:【有】 ※講師の希望により、要旨は不掲載

講師:藤本 啓介 氏(トヨタ自動車株式会社 調査部部長)

司会:村田 隆一 氏(三菱UFJリース株式会社 相談役)

演題:「自動車を取り巻く環境変化と将来見通し」

 

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例会の風景

 

 

第124回樫の会例会 日時:平成29年9月26日(木)18時30分より

資料配布:【有】

講師:滝田 洋一 氏(日本経済新聞社 編集委員)

司会:串田 孝義 氏(日本経済新聞社 編集局運動部長)

演題:「揺れる内外情勢の変動力学」

 

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講師:滝田 洋一 氏

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司会:串田 孝義 氏

 

以下、Pはレジメのページを指す。

P2

安倍政権は土俵際に立っている。総選挙の議席予想は難しい。希望の党が安倍政権に対する批判票を取り込み。自民党と希望の党のせめぎあいになるだろう。
今回の選挙戦の争点は2つ。
1つ目は、北朝鮮の問題。2つ目は消費税再増税の問題。
まず最初は北朝鮮の問題から。
スライドにあるティラーソン国務長官の演説から分かることは、現政権の基本的認識は、話し合いをしている間に、核開発が進んでしまったら、北朝鮮を核保有国として対応しなければならない。なので、今強くプレッシャーをかけているという事。

P3

首脳会談後の日米共同声明にある、「核及び通常戦力を使った日本の防衛に、、、」の核(Nuclear)という言葉が入ったのは初めて。
北朝鮮の緊張が今後も高まる恐れがある。この事が今回解散する理由の一つ。今後北朝鮮の緊張が収まる方向であれば、沈静化してから解散すればいい。今後のトランプ氏のアジア歴訪のタイミングを見据えて、早い時期に解散、総選挙をして国内を固めようという考えだと思う。

P4

握手の研究 右下は、最初の会談時。親しさが増すと左上のUrbanになる。そして、Shake&Hugの略語であるShugやShake&Coverと親しさで変わってくる。

P5

極端な世論の二極化が起こっている。
日本人が接するのは民主党の人が多い。日常、接する記事も民主党寄り。ここがアメリカのDepth。
なので、支持率が下がったと言う情報をベースに全体を判断すると、判断を誤ることになるので注意が必要。大統領にはとんでもないやつが就いているが、株価は順調だという認識がある。法人税率の引き下げを共和党支持者は支持している。
大企業の法人実効税率は関係無い。今回のトランプ税制の特徴は、法人成りしている個人も適用対象にしている点。支持層の中に中小・中堅企業経営者が多く、受けがいい。

P6

この場所で、金融政策の出口戦略を検討している。3人の表情を見ると中央銀行の経済運営はうまく行っているのはないかという自分の考えを、この一枚が示していると思う。

P8

このスライドでは、経済の自力が高まっているのかを見る。
潜在成長率の様子が、がらっと変わったのではないかと言うのがここで提言したい事。
数値として、(16/4~6) 0.3%から(17/4~6)1.0% になった。大きく改善されたのではないか。まさにがらっと変わったという事。これは安倍政権の評価できるポイントだと思う。

P9

残った課題は雇用市場のミスマッチではないかと思う。
たとえば、IT系エンジニアは求人倍率5.8倍という大変な人手不足、一方でオフィスワーク事務職は0.5倍で人余りの状況である。
このミスマッチをどう埋めていくかが、もう一歩の経済の好循環を考えると大きな課題であると思う。
トピックとしては、先日、三菱UFJフィナンシャルグループの平野頭取がフィンテックを活用して、9500人分の業務を自動化すると発表した。これは同行の国内従業員30%に匹敵する数の人材の配置転換を意味するものである。

P10

この年代別内閣支持率は2017年7月と言う、一番逆風の時期の数値である。ここで指摘したいのは、10代、20代の支持率が56%という事実。
一般的には高齢者の方が保守的。若年層が革新的と思われているが、ここでの数値が示しているのは、若い世代の方が自民党支持率が高く。60歳以上の方が、自民党支持率が低いという事実。
それは何故なのか?一つ目の理由として、失業率の低下がある。
安倍政権のもとで、若年失業率は低下。就職の内定、内々定を学生は多くとれるようになった。環境的には今の方がいいと判断しているのではないか。

P11

こちらの図は一日の時間のポートフォリアを示している。
40代前半は働き過ぎ。60代前半は時間がたっぷりある。
40代と同じ様に働ける60代がごろ寝、TVで時間を使ってしまっているのが分かる。
定年前、定年後で、ぷっつりと切れてしまう仕組みではなく、この2枚のグラフに象徴されるものを、どうやって是正していくかという戦略、戦術を考える事が大事なポイントである。
健康寿命は、アメリカは3年、ヨーロッパ6年、日本は10年と言われている。この10年に大きな崖があり、10年をごろ寝とテレビとパチンコで過ごしている人が多い。スキルがある人にこのような断絶があってはいけない。大きなパラダイムシフトが必要ではないという問題提起である。

以 上

 

 

第123回樫の会例会 日時:平成29年7月20日(木)18時30分より

資料配布:【有】

講師:岩田 明子 氏(NHK政治部記者 解説委員)

司会:増岡 聡一郎 氏(株式会社鉄鋼ビルディング 専務取締役COO)

演題:「東京都議選後の安倍政権の行方 ~第一次政権と第二次政権の違いから分析~」

 

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講師:岩田 明子 氏

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司会:増岡 聡一郎 氏

 

<第一次安倍内閣>(2006年9月26日~2007年8月27日)

美しい国造り内閣、小泉構造改革の加速、戦後レジームからの脱却など、スローガンは立派だったが、実績としては教育基本法成立、防衛省昇格など数えるほどしかなかった。
首相補佐官増員(5名)など官邸機能強化を狙った。
国家安全保障に関する官邸機能強化会議(NSCの前身)を設立。
官邸機能を大統領制に近づけようとしたが、権限もあいまいになった。
塩崎官房長官や下村官房副長官などの起用は、お友達内閣と揶揄された。
青木・森・古賀・山崎など長老が現役だったため、人事などをめぐって、お伺いを立てざるを得なかった。
2006年12月に佐田特命担当相が辞任してから、松岡農相・久間防衛相不祥事失言が続き、対応は後手後手。
さらに年金記録問題で支持率は下落。
2007年6月のハイリゲンダムサミットでは、思い切ったCO2削減を打ち出し、国際社会で一定の評価を得たものの、国内での評価に繋がらず、また外交上も、その後の二国間関係のテコにすることもできなかった。
中国・韓国を電撃訪問し、小泉総理による日中、日韓関係の悪化を打開したものの、中長期的なバイの信頼関係構築には至らず。
参院選惨敗も退陣せず、解散もできなかった。
郵政解散で離党した議員の復党を認め、結果的に政治力が弱まった。
本来であれば、国民の信を問うべきであった。

<5年の雌伏時代>

経済界との勉強会を重ねた
歴史・医学など幅広い勉強をした。
「維新」橋本徹との関係が深まった。行使時の維新にも拘らず、松井一郎は三顧の礼で党首就任を安倍に頼む場面もあった。
ミャンマーでの学校づくりなども行っていた。

<第二次安倍内閣>(2012年12月26日~)

経済最優先。掲げたのはアベノミクス。
高村副総裁、石破幹事長、次に、谷垣、二階など、幅広く党内バランスを考慮した人事。副総裁に高村。
実績は第一次よりもはるかに充実:TPP、消費税率8パーセント、特定秘密保護法、靖国神社参拝、武器輸出3原則見直し、原発再稼働、集団的自衛権、戦後70年談話、慰安婦合意、伊勢志摩サミット、オバマ大統領広島訪問、真珠湾訪問、トランプ会談、プーチン来日など多数。
70年談話に対する謝罪を厭わない姿勢や覚悟を見ていると、生まれ変わったような印象。
アルジェリア事件など、テロなどには機敏・冷静に対応。閣僚辞任の対応も迅速。株価は上昇。
先進国の古参のリーダーとして国際会議では存在感を増す。
中国・韓国の問題は自分が決着、子孫に残さない強い覚悟。
幾つかの支持率低下要因がある度に、日韓合意・伊勢志摩サミット・オリンピックのマリオ・トランプ初会談・プーチン来日・真珠湾追悼訪問・フロリダ日米首脳会談などでV字回復。
プーチンとのtete-a-tete会談で、首脳同士の信頼を深めた。
民主党政権後、日米関係はマイナスからの再出発を余儀なくされたが、TPP妥結や辺野古移設など課題解決を進めていった。

<違い>

二次政権では平和安全法制で支持率が下がるも、直後に一億総活躍社会の実現など、福祉政策に舵を切るなど強かな政権運営。
また一次政権では復党問題で信を問わず、結局解散をすることができず、党内政治で乗り切ろうとした結果、失敗。
一方、二次政権では自らの手で解散。信を問うている。
二次政権では生活に密着した経済政策を前面に打ち出し、理念的なスローガンは影を潜めた。
結果として長期政権となった二次政権では、地球儀俯瞰外交を掲げて各国との二国間関係を強化。国際会議では事実上の議長役を務める場面も増え、各国との橋渡し外交なども行うようになった。

<しかし、都議選後の現在>

2015年以降、政策疲れが見える。最大の難関とみられていた平和安全法制の設立や戦後70年談話を経たほか、米議会上下両院での演説を実現。この年以降、政権運営が変質したのではないか。
また東京都知事選をめぐっては、安倍総理自身は小池氏支持を考えた場面もあったものの、徹底した党内議論を行うことなく、反小池ムードに流されて戦略を間違えた。さらに選挙後、小池氏とノーサイドにするチャンスを逸して選挙結果を引きずってしまった。
国会の森友問題での質疑で「妻や私が関わっていたら私は総理大臣をやめますよ」との発言は、総理大臣として失敗。驕り・疲れ・緩みがあった。
かつてない低支持率となった。
内閣改造で仕事師や重鎮をそろえた重厚内閣を作り、原点回帰ができるかどうかが問われる。
しかし、10年前とは違う面もある。
党内にポスト安倍を担える人材がまだいないこと。
またかつてのような長老が現職では不在になったこと。
外交実績があり株高で景気が良いという好材料もある。
支持率を再び回復軌道に乗せることができるかどうかは安倍総理が私心を捨て、思い切った人材を遂行し、愚直に子公民目線の政策を打ち出すことができるかどうかに尽きる。

以 上

 

 

第122回樫の会例会 日時:平成29年5月30日(火)18時30分より

資料配布:【有】

講師:深尾 光洋 氏(武蔵野大学教授)

司会:吉川 洋 氏(立正大学教授)

演題:「金融政策の財政コスト:日銀が債務超過になった場合の処理方法」

 

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講師:深尾 光洋 氏

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司会:吉川 洋 氏

 

以下、Pはレジメのページを指す。

P2

黒田総裁就任直後の量的緩和は、正しい政策と評価することができる。国債を短期間に大量に買ってデフレを脱却するという狙いは正当化できる。
その後国債買い入れ額を拡大したことと、買い入れ期間を延長したことは評価できない。
国債金利をマイナスにしたことにより、民間銀行の投資対象ではなくなってしまった。民間銀行は日銀への転売を目的として新発債を購入しており、金融緩和の効果を生んでいない。

P3

日銀は長期国債を400兆円近く保有しているが、今後物価上昇率が2%を超えた場合に日銀による債券購入中止が金利上昇を引き起こし、多額の債券評価損を抱えることになる。

P6~7

現時点での名目GDPは概ね500兆円程度とバブル期の91~92年と同程度であり、企業収益は好調に推移しているといえる。
日経平均株価はバブル期には及ばないが、東証一部時価総額はバブル期と同程度の水準である。好調な企業収益の裏付けがあるため、株価にバブル期のような過熱感はない。

P8

企業のキャッシュフローは高水準で推移しているが、国内投資は増えていない。成長率が高い海外投資に向かっている。

P9~10

物価上昇率の指標として日銀は生鮮食料品を除いたコア指数を見ているが、これはエネルギー等の輸入に影響を受けるため、為替レートや国際市況の影響を受けやすい。エネルギー価格も除いたコアコア指数のほうが国内要因をより正確に反映している。
GDPギャップは±1%程度の統計誤差があるものの、これで見てもコアコア指数で見ても、さらにGDPデフレーターで見ても、2013年にはデフレを脱却していたといえる。
従って2014年秋にデフレ脱却宣言をすべきであったが、逆に追加緩和をしたのは問題であった。

P11

潜在労働投入量とは労働者がフルに働いたら達成できるであろう労働量の推計値であるが、実際労働投入量とともに1990年ごろから趨勢的に下落している。
この要因は週休2日制を含めた時短の流れや生産年齢人口の減少であり、今後も減り続ける。女性労働者数は増えているが、一人当たり労働時間は減っており、総労働力は横ばい程度に留まっている。
生産性の向上は年率+1.5%程度であり、生産人口が1%程度減っていくので、成長率は+0.5%程度がせいぜいであろう。

P12

長期国債金利はGDPデフレーターを上回って推移するのが通常であるが、最近は下回っており異例の展開である。これは日銀の国債購入により債券価格が下支えされているからである。
市中金利は国債に連動するものもあるが、国債金利の低下ほどには低下しないものが多く、国債買い支えによる景気刺激効果は限定的である。

P13~18

上記のデータから導かれる結論として、今後は金利上昇が見込まれ、その結果日銀が債券評価損を抱えることになる。簿価割れの債券を市中売却すれば、債券売買損による赤字の発生や債務超過になるリスクがある。
金利が2%程度になれば、過去の銀行券需要動向から類推して日銀券残高は35兆円程度になると予測できる。これでは日銀は債券保有残高を維持できない。代替として日銀当預で資金調達を行う場合、預金に付利すれば利息支払いが発生するが、これを日銀券増発で賄うことは信用維持の観点から許されない。
預金準備率の引き上げと低利の日銀当預金利の組み合わせで、金融機関から日銀に収益を移転することも可能。法律上は預金準備率を20%まで引き上げることが可能であるが、民間銀行の反発は避けられない。
インフレが目標値を超えても日銀が緩和的な金融政策を継続し、更なる物価上昇を引き起こすことも可能。この場合は財政再建も達成されるメリットがあるが、預金・債券の保有者の資産が実質的に減価することとなり、現実的には50歳以上の金融資産保有層にダメージを与えることになる。

P19

消費税を上げる見通しがない中で金利が上昇した場合、政府債務は発散することとなり、長期国債の保有には大きなリスクが伴う。このリスクを避けるためには分散投資が必要。
現状の政府債務残高はGDPの200%程度と高水準であるが、これは戦後直後の水準と同程度。戦後は5年で物価が70倍になり、政府債務残高はGDP比20%まで急減した。
この場合国債保有者は大きな損失を被るが、若年層は将来の増税負担から解放されるメリットがある。

 

以上

 

 

第121回樫の会例会 日時:平成29年4月21日(金)18時30分より

資料配布:【無】

講師:藤崎 一郎 氏(上智大学国際関係研究所代表、一般社団法人日米協会会長(前駐米大使))

司会:藤原 帰一 氏(東京大学教授)

演題:「トランプ政権と日米中関係」

 

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講師:藤崎 一郎 氏

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司会:藤原 帰一 氏

 

講演のテーマは以下の4つ

1.世界はアンチグローバリズム化しているのか
2.トランプ政権は乱暴か
3.大統領が暴走した場合に適切なブレーキは効くか
4.世界は従来とは違った未知の領域に進んでいるのか

 

トランプの得票率は2000年以降の勝者としては最低であった。
ペンシルバニア、ウィスコンシン、ミシガンは本来民主党の地盤であったが、ここを僅差で取ったのがトランプの勝因。
同時に実施された上下両院選挙では現職議員の再選率が90%であったことを考えると、クリントンが既成政治の代表とみなされて落選したという解釈には疑問が残る。

 

日米、米中、NATO、イラン、パレスチナ、シリア、北朝鮮に関する政策は、いずれもトランプが前言を翻し、既存路線に回帰した。これはどう解釈できるか。

① 駆け引き →不安定な大統領という評価につながるリスクがあり、駆け引きとは考えにくい。
② 損得勘定 →ロシア・中国と対峙するためには同盟国が必要。
  安倍総理がいち早くトップ同士の個人関係を構築したのは成功。
③ 主要な関心は移民と雇用 →外交・安保政策は優先順位が後回しになった。

 

ブッシュ(子)政権では政権内のハト派とタカ派の対立があり、オバマ政権では政権内の鉄の結束が求められた。トランプ政権では依然として群雄割拠の状態であり、政権内での勢力争いが活発に続いている。
バノンが主流からはずされたのは①入国禁止令等の政策の失敗②クシュナーと相性が悪い③目立ち過ぎ・やり過ぎ、という3つの理由から必然であった。
米国は三権分立といいながら、行政(大統領)と立法(上下両院)は共和党がおさえ、最高裁判事も保守派が過半を占めている。情報機関は反トランプであったが、いつまでもその姿勢を維持することは難しいであろう。

 

米国の政策は終始一貫しているわけではない。過去数十年にわたり、大統領が交代する度に大きな政策変更が繰り返されてきた。
前政権と違う政策の推進は、トランプ政権が初めてやる訳ではないことを頭の片隅におけば不安感が少しは薄らぐのではないか。

 

以上

 

 

第120回樫の会例会 日時:平成29年1月23日(月)18時30分より

資料配布:【有】

講師:坂村 健 氏(東京大学大学院情報環教授 ユビキタス情報社会基盤研究センター長、

          TRON Forum会長、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長)

司会:丸山 徹(慶應義塾大学名誉教授)

演題:「オープンIoTが創る新しい社会」

 

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講師:坂村 健 氏

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司会:丸山 徹

 

講演要旨

(坂村氏のTRONはIoTのさきがけである)
 IoTはInternet of Things、モノのインターネットと言われるが、その前提は極小デバイスが関連するモノに装着され、偏在性(ubiquitous)、着用性(wearable)をもっていること、同時にそれらを高速で動かすOSが必要であるが、それを世界に先駆け提唱(1984年)・開発してきたのが坂村氏の「組み込み用OS」TRON(The Real-time Operating System Nucleus)であった。
 TRONは開発当初からオープンアーキテクチャ、関連技術仕様・ライセンスの無償公開のポリシーでスタートしており、また同時に今日のIoTのコンセプトを世界に最初に提示していたこともあり、それらを理由にITU(国際通信連合)150周年記念賞を世界から選ばれた5人のひとりとして受賞(2015年)した。
 IoT概念と同様のものを坂村氏は、生活環境のHFDS(Highly Functionally Distributed System)化、それを支えるUbiquitous Computingなどで表現してきたが、今日Internet of Thingsという呼称が一般化した理由は、「モノをインターネットにつなぐ」というよりも、「インターネットのようにモノをつなぐ」ということを明確に表現したからであるという。IoTの本質は、そのオープン性にあり、TRONやLinuxが世界全体に大きな影響を及ぼしてきた理由も、それらの技術のオープン性であった。

(システムのオープン性の意義)
 ICT領域におけるオープン化の流れは、OSから始まり、データベースなどのミドルウェアへ、またハードウェア設計のオープン化やシステムを外部の他システムから自由に制御可能にするオープンAPI(Application Programming Interface)、さらにオープンデータ、すなわち公共性の高い事業で生まれる各種のビッグデータをオープン化して公共の資源とするといった動きに繋がっている。ここでオープンとは、所与の公的ルールに従うことを条件に誰でもが参加し何にでも利用できることを意味する。

(これからの産業発展の方向性)
 先進国においての今後の経済レベルの向上は、基本的にイノベーションによるしかないが、そのためには新たな技術やチャレンジ自体をより容易にしていくことに尽きる。クラウド・ソーシングやクラウド・ファンディングなどによって、協力者や資金もネットで調達ができるようになってきている。
 世界ではオープン、マッシュアップ(公開要素技術の組合せから新しいサービスを創りだす)、ベストエフォート(責任分界を設け個々の関係者には最大努力を要請)を原則にして、イノベーションの速度が加速するなかで、クローズ、自己完結、ギャランティー(全機能について保証しようとすること)という日本のビジネス性向は足かせとなっている。
 ドイツの産業政策ビジョン「インダストリ―4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」も、製造でのトヨタのカンバン方式、販売済機材の管理でのコマツのKOMTRAXなどと目的に代わりはない。しかしそこでのポイントはオープン度合である。確かにトヨタ、コマツのように日本はこの分野で先行してきた。しかし、次の時代のイノベーションの核となると期待されているのは、「インターネットのようなIoT」、つまり「オープンIoT」を意味する。

(技術開発とガバナンス)
 技術以上に重要なのが実はガバナンスの問題である。オープンIoTの実現には、技術設計と同程度にまたそれ以上に、社会的な制度設計が重要となる。日本では、技術面と最終利用のイメージばかりが注目され、社会的にそれを実現していくために必要な制度面での改革が積み残される傾向がある。技術は完成しても、社会への出口戦略がないことが往々にしてある。
 様々な社会制度を何ら変えないままにIoTの力を期待しても無理がある。社会活動の側も新たに技術を活用するための制度改革を進める勇気が必要である。一方でIoTは現実世界のガバナンスを反映する必要があり、その導入や利用は社会的であるべきある。それをテクノロジーとして捉えてしまうと失敗しかねないことを強調したい。

(その他の話題)

オープンデータの事例:ロンドンオリンピック準備(2012年)のためにロンドン交通局がデータオープン、東京メトロの運行状況オープン化実験、その他物流データのオープン化の試みなど。
オープンデータを前提にしたXプライズ方式など技術コンテストの効用:「入札」ではなく、コンテストで勝ったものに「賞金を与える」という方式による調達や製品・サービス開発。競争心や栄誉が生まれ、入札方式より安価な調達が可能とみる。コンテストに関しては、上記東京メトロのデータ利用応用サービス、リコーのRICOH THETA デベロッパーズコンテストなど。

(会場からの質問)

オープンにしてシステム全体の制御はできるのか
 対策は、叡智を集めたガバナンス体制を作る以外にない。ガバナンスに関しては、データのガバナンス(データは誰のものなのか)と制御のガバナンス(制御権の優先順位)がある。マクロ的なアプローチとしてはG8オープンデータ憲章や米国政府の「透明性とオープンガバメント」などは参考になる。
個人情報保護との関係ではどうか
 重要課題であり制度設計が大事である。ただし以下の観点に取り組んでいくことも重要と考える。オープンデータの有効利用を進めることを前提にした場合、例えば、個人は自分の情報の流れを独占的にコントロールできるということを「個人の権利」とするのではなく、個人情報を受けた側が、状況に応じて適切に扱うことを「事業者の義務」としてプライバシーを定義しなおし、そのコンセプトのもとに制度を再構築するといった必要性も出てきている。これらもガバナンス設計の基本問題である

(注)
1.
TRON Forum については右記URLを参照。http://www.tron.org/ja/
同ウェブサイトにある坂村氏による会長挨拶によってその経緯が分かる。
TRONプロジェクトの30年のウェブサイトも参考になる。URLは下記のとおり。
http://30th.tron.org/tronproject.html
2.
横須賀テレコムリサーチパーク(YRP)の研究施設運営支援会社に2002年3月設置された、産官学協同でユビキタス社会に必要とされる共通の技術基盤の確立を目指す研究所。詳しくは次のURLを参照。http://www.ubin.jp/about.html
3.
坂村氏は、セキュリティ、プライバシー問題をシステムのガバナンスとともに重要課題と認識しており、坂村(2016)第3章、第4章、坂村編(2006)第3章「セキュリティとプライバシー」では詳しい展開があるので参考にされたい。
(参考図書)
坂村健(2016)『IoTとは何か 技術革新から社会革新へ』角川新書
坂村健編(2006)『ユビキタスでつくる情報社会基盤』東京大学出版会

 

以上

 

 

第119回樫の会例会 日時:平成28年11月18日(金)18時30分より

資料配布:【有】

講師:吉川 洋 氏(立正大学教授)

司会:深尾 光洋 氏(慶應義塾大学教授)

演題:「人口と日本経済」

 

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講師:吉川 洋 氏

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司会:深尾 光洋 氏

 

以下 スライドで説明。補足コメントを記載

経済社会の閉塞感
1950年代、日本は人口が多すぎるという議論が多く海外へ。
戦後になると外地から日本人が戻り、職があるのかという議論へ。
1970年代、社会保障の関係で、専門家が人口減少について警鐘を鳴らしだした。
現在の予測では100年後に日本に人口は4,000万になると言われている。
人口減少から右肩下がりの経済成長という見方に対して反論をしたいと考えてる。

 

格差の拡大
今回の米国大統領選でのトランプ支持者のグループに一つにPoor Whiteがいる。
データによると、アメリカ全体では平均寿命が延びている中、Poor Whiteに限っては、平均寿命が短くなっている。その背景には、経済的困窮、アルコール依存、病気になっても病院へ行けないという事実がある。米国での格差拡大の一例である。
同じく、ヨーロッパでも格差は拡大している。
そして、日本でも格差の拡大は広がっている。
その要因は以下の3つ

高齢化
高齢者層の所得格差が非常に多い。その高齢者層が人口全体に占める割合が大きくなっていきている(高齢化)ので,全体として高齢化が格差拡大の大きな要因。

家族の変容
経済力の無い若者が世帯を構えている

経済の長期低迷
正規、非正規が典型例
働く日本人の4割が非正規。非正規の結婚率は極めて低く、子供を持つ率は更に低い

 

大金持ちの大金持ち度(スライド5)
米では、近年 富裕層トップ0.1%の所得が全所得の8%を占めている。
スライド5の表の左半分は戦前。
戦前は伝説的な富豪が存在した。日本にも財閥が存在した。しかし、表の真ん中ぐらいが戦後。戦勝国、敗戦国にかかわらず、戦前の大富豪が消えてのがデータからわかる。
その状態はその後1980年ごろまで続き、その後 英国、米国、カナダで一部の富裕層が占める割合が跳ね上がった。それは、戦前のピークより上に行っている。すなわち、前記3各国では戦前より、現在の方が格差が拡大している。

米国一般企業社員の平均年収とトップの倍率が、かっては40倍であったが、今は400倍といわれている。アメリカには高校中退、高校卒業、大卒、大学院卒、3スクール卒(メディカル、ロー、ビジネス)の5つの層がおり、今は、3スクール卒以外はみなルーザー(敗者)といわれるほどのすさまじい格差社会である。ヨーロッパや日本でも、そういう動きであるが、現状は、日本にはウイナーがいなくて、全員がルーザーという状況。

 

社会保障の給付と負担の現状(スライド7)
ロシア革命の直前までフランスはロシア国債を買っており、ロシアのマクロ経済は良好と思われていたが格差拡大により革命がおこった。
またイラン革命の引き金も宗教問題と格差拡大であった。
格差拡大のストッパー役が社会保障である。
問題はどうやって保障していくかである
保険料では給付の約6割しかカバーしていない。簡略化して給付が100兆とすると
60兆を保険料、40兆を税金で負担。40兆のうち、国が30兆、地方が10兆。
しかし、実際は税だけではカバーできず、赤字国債でカバーしているのが現状。

 

持続不能な財政赤字(P9スライド)
歳出、歳入のギャップは極めて大きい。景気変動による税収の増減といった単年度の話ではない。日本国民はもっと税金を払う必要がある。
(スライド11~スライド20は時間の関係で説明省略。配布資料をご参照)

 

先進国の経済成長を生み出すのはイノベーション
スライド23の表
戦後のデータを見てもわかるように、人口とGDPは関係ない
高度成長の時代、経済は毎年10%で成長していた。
当時の労働力人口の増加は1.3%程度
10%-1%の9%は労働生産性である。どうやって労働生産性が向上したか。それこそがイノベーションである。
技術向上、設備投資、技能形成、これこそが先進国の経済成長である。
人数が減るから消費は減るのか?消費は数×価格である。頭数が減るから消費が減るという考えは間違い。高付加価値の価格が高いものの消費が重要。それでは 高いものを買う購買力はどこから来るのか?

 

イノベーションの行方(スライド28)
日本にとって毎年1.5%の経済成長は可能であると考えている。(イノベーションが起こることが前提)
一方で人口は毎年0.5%減っていく。すなわち、一人当たりの所得で考えると毎年2%増となる。毎年2%増加していくと35年で2倍になる。すなわち、今30歳の人が60歳になる時には今の20代、30代の2倍の所得を持つことになる。現在の生涯賃金が3億円とすると、今の30代が60代になる時には6億になる可能性がある。この所得増はどこに向かうのかということを考えるべき。

 

イノベーションの衰退?(スライド29)
部門別貯蓄投資差額の推移
日本では純貯蓄主体は企業
利益剰余金の急増
日本は所得水準が高いうえに人口もある程度ある国。ドメスティックマーケットは宝の山である。

 

以上

 

 

第118回樫の会例会 日時:平成28年9月12日(月)18時30分より

資料配布:【有】

講師:嘉治 佐保子 氏(慶應義塾大学教授)

司会:舩橋 晴雄 氏(シリウス・インスティテュート株式会社 代表取締役)

演題:「英国によるEU離脱の背景と影響」

 

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例会の風景

 

レジメP3

BREXITは、カメロン首相が民意を読み違えて国民投票を行った結果発生した、民主主義プロセスの失敗の一例である。

EU離脱により週35千万ポンドをEUに払わずに済むという主張は、英国がEUから得ている以下の収入を勘案していない点において間違っている。

  • サッチャーがEUから勝ち取ったリベート
  • 農家収入の54%を占める所得補償・補助金
  • 医療費補助

P4

投票時に十分な情報を持っていたと考えている国民は2割しかおらず、1/3の国民は情報を持っていなかったと考えている。

P6

年齢別の投票行動を分析してみると、年齢が高いほど離脱支持率が高い。

離脱の影響は若年層ほど大きく受けるにもかかわらず、離脱支持率は若年層ほど低いという点に問題がある。

P7

全世界における1998年から2008年の実質所得の伸びを分析すると、所得水準の上位1/4に相当するような相応の生活水準を保っていた層の伸び率が低く、生活水準が悪化した。

これがEU離脱、ドナルドトランプ、反移民、反グローバル等を支持する意見の広がりにつながっている。

P8

メイ首相がBREXIT派を閣僚として重用する理由は、元々問題を引き起こしたBREXIT派が自力で解決すべきという判断に加え、もしBREXIT派の閣僚が失敗しても政敵の失点になるという思惑がある。

EU離脱支持が優勢を占めた投票行動の背景には、所得格差がある。それを解消するため産業政策を強化するべく省庁再編を行った。

教育面での格差縮小を目指すため、グラマースクールの復活も企図している。

グラマースクールは元来エリート向けの公立学校として入試を伴う学校であったが、労働党政権時に規模を縮小されてしまった。その結果有力校周辺に高所得層が引っ越すという地域間格差が発生したため、グラマースクールの復活はその解消を目指した施策である。

P9

英国はEU離脱前に各国との貿易交渉を進めたい意向だが、EUとしては離脱前に個別交渉をすることは認められないとの立場。

P11

メイ首相は現実的な実務家であり、現在の状況下では最善の首相である。

EU域内で軍事・安保・反テロに力を発揮できるのは英仏の2か国であり、英国の国民投票後のEU人事でこれらの担当に英国を充てたのは正しい選択といえる。

P13

条約上EUを脱退する時期は、離脱交渉妥結時か、交渉開始から2年経過した時と決められている。交渉がこじれて離脱後の条件等が決まらないまま2年経過し、時間切れで離脱に追い込まれるのはリスクが大きい。

今回離脱するのが英国であったのは不幸中の幸いである。英国であれば冷静に利害得失を判断することができるであろう。

P17

ポーランド、ハンガリーは反EUを明言しており、独仏ではなく東欧がEUの中心になるべきと主張している。

EU加盟国の民主主義が、P18/19の寓話に書かれているような方向で改革されていくことが重要である。

以上

 

 

第117回樫の会例会 日時:平成28年7月11日(月)18時30分より

資料配布:【有】

講師:滝田洋一 氏(日本経済新聞社編集委員)

司会:鈴木淑夫 氏(鈴木政経フォーラム代表)

演題:「世界経済 大乱の見取図 日本の課題と展望を探る」

 

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講師:滝田 洋一 氏

(日本経済新聞社編集委員)

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司会:鈴木 淑夫 氏

(鈴木政経フォーラム代表)

 

P2
なぜ世論調査はBREXITの予想を間違えたのか
 →世の中に不満を持っている層は調査に非協力的であるため、サンプルバイアスがあった。4割程度と見込まれるこの層を見誤ったのが原因。
今回の参院選の結果予想は、序盤と終盤で傾向があまり変わっておらず、BREXITとは逆に予想がよく当たった事例と言える。
1989年以来自民党は単独過半数が獲れないが、消費税や年金といった負担と給付の問題で失敗した時の選挙で、惨敗に直結している。
1998年の橋本総理の下での選挙では、景気対策のための所得税減税が、恒久減税なのか恒久減税なのかの説明に失敗し、大惨敗を招いた。
今回も消費増税先送りの決断を参院選後に延期していたら、98年の二の舞になるリスクがあった。

 

P3
2014年の消費増税後、個人消費の上昇トレンドが途切れ、反動減から回復できていない。個人消費のもたつきは想定以上に長引いており、再増税するリスクは大きいと判断せざるを得なかったのが、再延期の背景である。

 

P5
トランプ氏の財政・金融政策はいずれも経済拡張的であり、自国通貨安も指向している。これは初期のアベノミクスのポリシーミックスに類似している。

 

P6
ドル円相場の決定要因として、7~8割は日米金利差で説明できる。残り2,3割の要因は貿易収支・経常収支である。
2015年末までは日米金利差の拡大見通しがドル高要因であった。2016年に入ってから米国金利の引き上げが困難との見通しが強まり、日米金利差の拡大が見込めなくなり、ドル安となっている。
急激な円高に対し日本が介入できないのは、人民元相場の影響。元高ドル安が1月から4月まで続き、5月になって元安に転じたものの円は高かった。米国は更なる元安進行を許容できないため、日本によるドル買い介入を認めなかった。
中国高官が、中国の構造調整は難しく時間が掛かるが、財政刺激策等の短期策で対応すべきではないと発言したことにより、元安誘導観測が浮上して5月以降元相場のトレンドが変わった。
これは米中戦略・経済対話での対立とつながっている。対立要因は南シナ海の領有権問題と中国による為替介入であり、このとばっちりを受けて日本の為替介入が封じられている。

 

P7
資金循環勘定を見ると、企業セクターがが最大の資金余剰部門となっているのが問題。企業の経常利益水準は、バブル期を超えて過去最高水準にあり、積みあがっている手元資金をどう使うのかが最大のポイント。

 

P8
供給曲線を下方シフトさせることにより、新たな市場を創出するチャンスは大きい。第4次産業革命ともいえるこの局面では、従来の勝ち組企業が足元をすくわれるリスクも十分にあり、5年程度で局面が全く変わる可能性もある。

 

P9
日本企業の積みあげた手元資金が賃上げや投資に向かわないのであれば、次善の策として資金を自社株買いやM&Aに使っても良いのではないか。日米の株式需給を比較してみると、企業の自社株買いをもっと増やす余地があるように見える。

 

 

第116回樫の会例会 日時:平成28年5月12日(木)18時30分より

資料配布:【有】

講師:十市 勉 氏(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究顧問)

司会:山口 光恒 氏 (公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE) 参与)

演題:「国際石油情勢と我が国エネルギー政策の課題」

 

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講師:十市 勉 氏

(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究顧問)

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司会:山口 光恒 氏

(公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE) 参与)

 

講演内容

以下 スライドに従って説明があったので、それぞれのスライドでのコメントを記載

1、 国際石油情勢

1)

急落する原油価格とその推移

2008年8月の下落はリーマンショックによる需要ショック
その後は金融政策で経済を戻した。その流れの中で、シェールオイルの開発本格化とアラブの春が起きた。今回の下落は供給ショック。OPEC減産見送り、サウジ、イランの対立関係 政治的な要因

2)

世界の石油供給の増加トップ5か国(2015年)

5か国は米国、イラク、サウジ、ブラジル、カナダ。
その中で米国が増加トップ。シェール革命で米国は世界最大の産油国に。
サウジは減産から市場シェア確保政策へ転換

3)

米国のシェールオイルとシェールガス

在来型よりも流通性が非常に低い(浸透率が低い)頁岩層に含まれるガスと石油。
水平抗井を安価に掘削し、水圧破砕により人工的に亀裂を形成、保持する技術により、2000年代から経済的に生産できるようになり、2008年ぐらいに爆発的に生産が進んだ。技術革新に伴う生産性の向上で生産コストの大幅な低下が実現。
油価が50ドルを上回るとシェールの生産が増加

4)

原油価格の長期変動とその要因

原 油価格を実質価格(2015年ドルベース)で見ると、1980年代に70年代から10倍に跳ね上がった結果、北海、アラスカ、メキシコ等の新油田開発が進 んだ。再度、油価が上がってきたら、コストの高い油田での供給が始まる。油価が上がれば、供給が増加して、需給で価格が調整される。
イランに対する制裁解除による原油生産能力大幅向上も大きな価格軟化要因。
中東・北アフリカ諸国の財政均衡に必要な原油価格水準として、50ドルから60ドルが均衡する価格ではないか。今後10年位はプラスマイナス20ドルの幅で推移すると見込む。
現在、低油価の長期化により、サウジアラビアでは公務員の賃金抑制と民営化エネルギー―補助金の削減、付加価値税の導入やアラムコの一部株式公開の検討などの対応が必要になっている。

 

アラブ地域最大の安定勢力であるサウジアラビアは多くの問題を抱えている。
内政面(高齢のサルマン国王(80才)の治世がいつまで続くか)
経済面(当面油価の大幅上昇の可能性は低い、経済改革の見通しは不透明、原油収入に依存しない財政を指向し始めている)
治安面(シリア・イエメン情勢の混乱が続く限り、テロの脅威は今後も高まる)
外交面(外交案件への対処を誤れば、サルマン国王らの威信にも影響)
→アラブ地域の最後の安定勢力であるサウジが不安定化すれば、地域のほかの王政国家にもその影響が波及していく可能性あり⇒ 最大の懸念要因

 

2、 わが国のエネルギー政策の課題

1)

大震災以降の電源種別の発電量とCO2排出量

震災以降、電力の構造は大きく変わっている、原子力を石炭火力等がカバーしている状況。結果としてCO2排出量が急増

2)

わが国エネルギー政策の目標水準

自給率:6%を⇒震災前(約20%)をさらに上回る25%程度を目標

電力コスト:電気料金は大幅に上昇(産業用=約3割、家庭用=約2割)

        再エネ賦課金は今年度1.3兆円から⇒現状よりも引き下げる目標

温室効果ガス排出量:2013年度CO2排出量は過去最悪⇒欧米に遜色ない削減目標

3)

日本の2030年度の発電構成の見通し

大きなポイントは、①再生可能エネルギーを22~24%に増やす点、②原子力を20~22%に増やす点、③石炭火力を26%とする点。

固定価格買い取り制度の開始後、すでに3年間で買い取り費用は約1.8兆円(賦課金は約1.3兆円)に達している。再生可能エネルギーの(22~24%へという)最大限の導入と国民負担の抑制の両立を図るべく、コスト効率的な導入拡大が必要である。
原子力発電所の状況(運転中、建設中、着工準備中などの状況及び審査、申請状況)を踏まえ、現存するすべての原子炉が40年で運転終了するとすれば、2030年ごろに設備容量が現在の約半分、2040年ごろには2割程度になる中、どうやって20~22%へ増やすのか・
石炭火力26%へ増やす場合の新設問題とCO2の削減の両立は?
4)

日本の電力システム改革の工程表

2013年4月 電力システム改革に関する方針の閣議決定
2015年4月 第一段階(広域的運営推進機関の成立、既成組織の見直し)
2016年4月 第二段階(小売り全面自由化開始)
2020年4月 第三段階(送配電部門の法的分離、ネットワーク部門の中立性・透明性)

⇒原子力発電再稼働の遅延、高経年原子力発電所の運転延長問題、電気料金問題等に伴う経営安定性への懸念、司法による原発運転差し止めのリスクも高まっている

 

電力小売りの全面自由化とその影響
足元では、消費電力量の多い需要家を主たる対象に価格競争が始まった。今後、電気料金は均衡点に収斂し、薄利多売の構造に拍車がかかり、電力会社経営の安定性への懸念

5)

電力自由化とエネルギー対策の課題

●総合エネルギー政策の整合性確保
安全性、安定供給、経済性、温暖化対策、
短期的な効率性と長期的な安定供給の実現

 

●電力自由化と原子力の両立を
 原子力事業における国と民間の役割分担の見直し
 バックエンド対策―「使用済み燃料再処理機構」の設立
 自由化により業界全体では過少投資になっており、いずれ電力不足を引き起こす
 
●公共利益の最大化を
 市場原理にゆだねれば、料金値上がりの可能性も
 電気使用量の少ない社会的弱者への配慮

以上

 

 

第115回樫の会例会 日時:2016年3月14日(月)18:30~

資料配布:【有】

講師:若杉隆平氏(京都大学名誉教授・新潟県立大学大学院教授)

司会:大澤真氏(株式会社フィーモ代表取締役)

演題:「TPPと日本経済の課題」

 

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講師:若杉隆平氏

(京都大学名誉教授・新潟県立大学大学院教授)

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司会:大澤真氏

(株式会社フィーモ代表取締役)

 

講演内容

1、 TPP合意への過程

TPPは1994年11月インドネシアのボゴールにて行われたAPEC首脳会議での「アジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成を遅くとも2020年までに完了する」というボゴール宣言が出発点となった。
ボゴール宣言を画餅に終わらせないように交渉の場を作ろうと、特にシンガポールとニュージーランドが強く主張。チリ、ブルネイを合わせた4カ国(P4)が 母体となり環太平洋経済連携協定(TPP)が2006年11月にスタートした。(TPP合意の最終段階で先導者としての自負があったニュージーランドが、 ルールメーカーとして自国に有利な主張を強めたことは、その初期からの理念達成のために当然の動きだったとも言える。)
2010年3月P4にオーストラリア、ペルー、ベトナム、アメリカが加わり8カ国でTPP拡大交渉開始。
2013年7月マレーシア、メキシコ、カナダに続き日本が交渉参加し最終12カ国。
2015年10月実質的に基本合意。2016年2月署名。実質5年半に渡る長い交渉だった。
今後各国が批准の手続きを行う手筈。

 

2、 TPPの特徴

TPPは極めて大きなシェアを占めるMEGA FTAである。TPP加盟国のGDPシェアは2015年で37.5%と世界経済のほぼ4割を占める過去最大のFTA。
高水準の市場アクセス(大幅な関税引き下げ。非関税措置の削減)
WTOを超える新国際ルール。WTOは160カ国以上の参加でなかなか合意形成が得られない状態であるのに比べ、TPPは機動的な新ルールの下で進んでいく。

 

3、 高水準な市場アクセス実現

関税の撤廃。工業製品は最終的には品目数、貿易額ともに完全なフリートレードとなる予定。(日本は100%、他11カ国全体で99.9%)
農林水産品について日本は即時撤廃51.3%で最終的に非撤廃が19%に対し、他11カ国は即時84.5%、非撤廃1.5%。つまり日本は農産物国内生産者保護の視点からは関しては大変有利な交渉をした。
ニュージーランド、シンガポール、ブルネイはすべての品目について関税撤廃。
2015年1月発効の日豪EPAの撤廃率が89%なのに比べてTPPは極めて高い域内市場アクセスを実現したと言える。
原産地規則についてもTPP域内複数国間での累積加算措置が適用となり、原産地規則での付加価値率クリアのためのハードルが低くなる為、結果として域内貿易の活性化に繋がる。
但し、原産地適用基準のハードルと原産地の証明手続きやそのコストが、TPP特恵関税適用の阻害要因となるが、統一的規則を決定し、輸出入者・生産者自らが証明書を作成し、英語表記に統一することによってその阻害要因を大きく軽減できる。
原産性の広域化、完全累積制度により加盟国間の貿易拡大が期待される。

非関税措置については以下の対応により高いアクセサビリテイーを維持。

a) 関税手続き48時間以内という迅速性と税関書類提出後6時間以内という急送貨物、関税分類・原案生の事前教示、電子システムによる自動化等で関税手続き・貿易円滑化が実現。

b) SPM(衛生と植物防疫のための措置)における手続きの透明性が実現。

(尚、食品の安全性を守るための日本の制度の変更は必要ないもの。)

TPP加盟国と非加盟国の関税撤廃率は2国間FTAと比べても品目数、貿易額ともに加盟国の方がはるかに高く、貿易拡大効果は高い。例えば米国に自動車を輸出する場合、現代(韓国;TPP非加盟国)よりもトヨタ(日本:TPP加盟国)の方がはるかに交易条件は良くなる。(配布資料参照)
世銀の試算では、TPP加盟国は軒並み貿易量が増加し、とりわけ日本やベトナム・マレーシアでは貿易量が20%以上増えると見込まれる一方、非加盟国の韓国、フィリピン、タイなどは貿易量がマイナスとなる見込み。但し、非加盟国であっても貿易拡大に結び付く国もある。(配布資料参照)

 

4、WTOを超える貿易・投資ルール

投資については、内国民待遇、最恵国待遇を適用。投資財産への公正衡平待遇・保護•補償や、特定措置の履行要求(ローカルコンテンツ、ローヤルティ、技術移転要求)の禁止を導入。投資先国で被害を受けた外国投資家が当事国を相手に請求、仲裁の手続き、濫訴の抑制(申し込み期間の制限、正当な公共目的に基づく規制を妨げないなど)をするなどのISDS(Investor-State Dispute settlement)が適用される。
ビジネス関係者の入国については一時入国要件(家族帯同で60日間など)・手続きの緩和が実現。
サービス貿易についても、内国民待遇・最恵国待遇を適用。市場アクセスも数量制限の禁止で緩和。WTOでは義務の遵守すべき分野を列挙する(ポジティブリスト)のに比べ、TPPでは「これだけはやってはいけない。」といった、義務が適用されない分野の列挙(ネガティヴリスト)に緩和される。
電子商取引規定が創設され、電子送信(コンテンツ)への非課税、コンピューター設備の自国内設置要求・ソースコードの移転要求の禁止が適用される。
知的財産についてもWTOを超えるルールが適用。例えば、権利化の遅延に対応した特許期間の延長を始め、医薬品の知的財産保護も特許期間延長制度(販売承認期間を考慮した延長制度)導入、新薬のデータ保護期間5年に生物製剤8年が加算。またゼネリックス承認審査時の特許権者への通知・販売不承認という特許リンケージを定めるなどよりルールが強化される。
商標については、国際的一括出願・出願手続きの制度調和、不正使用への損害賠償(権利者の立件負担の軽減)、地理的表示の保護・認定が導入される。
著作権については、アメリカの強い意向があり、保護期間の50年から70年への延長、侵害について、親告罪であったものが一部非親告罪化する。
競争政策ルールについては、将来TPPにロシア、中国が加盟する可能性を念頭に、ロシアガスプロム社の独占的地位の濫用や、中国国営企業による制約条件付き販売、使用先の制限、高価格設定等両国の国営企業による競争ルールの逸脱を懸念し、競争法の制定・執行手続・公正性透明性の確保を定める。
国有企業規制については、現行WTOでは他国有企業を想定した国際ルールは存在せずにいたが、主に中国を念頭に、オーストラリアの競争中立性規律の存在を生かし、TPPで初めて規制されることになった。商業的慣例への合致、内外無差別、非商業的条件(贈与、出融資、選択的規制)に影響を与えない情報(出資比率、役員、売上、資産、免除事項等)の提供、透明性の確保等の規律を導入。
今回TPPでは経済グローバル化の基礎を作ったと言える。投資、競争、国有企業規制、貿易円滑化、電子商取引、ビジネス関係者の一時入国、規制の生合成、腐敗防止、WTOルールの補完、企業のグローバル化、サプライチェーンの国際展開の促進といったファンダメンタルの醸成が期待される。

 

5、TPPのマクロ経済へのインパクト

TPPによる貿易自由化でマクロ経済へプラスの影響は大きい。
貿易拡大による競争・経済効率性の向上・生産性上昇→多数財の供給・資本ストックの増加→実質賃金・所得増加に伴う物価の下落・実質購買力の上昇→消費需要の増加・経済厚生の増加。という正のサイクルが期待できる。
経済連携協定はマクロ経済的にもプラス。特にTPPだけでなくRCEP、FTAAPと参加国が拡大すればするほど経済効果はプラス。中国の参加によるプラス効果は大きい。特に日本は大きく利益を享受する国。関税引き下げに加え非関税障壁(NTMs)の撤廃がより効果的。(資料参照)
TPPは加盟国のGDPを0.4%(アメリカ)〜10%(ベトナム)引き上げる見込み。GDP加重平均で1.1%引き上げる。特に後半に効果は加速される予定。引き上げの主たる要因は非関税障壁の削減によるもの。(財部門53%、サービス部門31%)関税引き下げによる効果は15%。特に自由化度の高い小国が利益を享受する。(ベトナム10%、マレーシア8%)一方、米国など既NAFTA加盟国の利益は低い(0.6%)。

加盟国の貿易増加率は11%。非加盟国へのマイナス効果は波及効果が貿易拡散効果を相殺するため限定的である。しかし一部の国(タイ、韓国、フィリピン、インド、中国)には不利益が生じる。

国際ルールの拡大と貿易利益の増加で締約国の新規加盟の可能性が拡がる。FTAAP(TPP)プラス RCEPプラスASEANで大きな経済圏が実現。

 

6、国際ルールの方向と政策課題

TPPの発効、特にGDP85%を占める6カ国(アメリカ、日本、カナダ、オーストラリア、メキシコ、マレーシア)の批准が今後の鍵。利益享受の大きい日本が先に批准してリードすべき。TPPの発効にはアメリカの批准が不可欠だが、まだその不確実性は高い。
国際化による自由化利益(輸出入、対外,対内投資の拡大)の実現への政策的支援は必要。
関税撤廃、非関税措置削減をドライビングフォースとした国内改革が期待される。例えば農業分野の改革、生産性向上の実現等。
TPPの拡張が今後の鍵。(締約国の将来的な拡大)

以上

 

 

第114回樫の会例会 日時:2016年1月25日(月)18:30~

資料配布:【有】
講師:北川フラム 氏(アートディレクター)
演題:「美術は地域をひらく~大地の芸術祭・瀬戸内国際芸術祭を事例に~」
司会:茂木愛一郎 氏 (前慶應学術事業会社長)

 

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講師:北川フラム氏

(アートディレクター)

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司会:茂木愛一郎氏

(前慶應学術事業会社長)

 

講演内容

以下 スライドに従って説明があったので、それぞれのスライドでのコメントを記載

1)<瀬戸内国際芸術祭>

瀬戸内国際芸術祭とは、2010年にスタート、トリエンナーレ方式で3年に1回開催。前回は2013年、春、夏、秋108日間で100万人を超える人が来る大きな芸術祭となった。

2)3)<草間彌生「南瓜」>

風景の中にアートを置く事でその風景のすばらしさを伝えることができる。

5)6)<地中美術館(設計:安藤忠雄)>

この美術館には、何も展示されていない。瀬戸内の青い空、海を伝える仕組みとして、安藤忠雄氏の建築がある。建物が目立ちたいのではなく、場所の特徴を表す建物になっている。美術は何かを伝える技術である。

7)<日本3景>

日本では80年以上前(昭和6年)に施行された国立公園法。米国では同様の法律があり、それは自然を守るための法律であったが、日本では観光日本を打ち出して、インバウンドという言葉も使っていたが、更には日本的な風景を守ろうと施行された。
日本3景に共通な事は海。もう一つは豊かな緑。そして、神社仏閣が景色に入っている。これらが私たちにとって、風景と親和性を持たせてくれている要素となっている。
同様に、アートが神社の代わりになるという考え。アートがシンボリックな意味を与えている。これが瀬戸内国際芸術祭でのアートの役割である。

11)<海の復権>

元々、瀬戸内国際芸術祭は地域復活のために始めたもの。
歴史上、瀬戸内海は、管理される島になってしまった。直島は精錬所、豊島は不法投棄の島。大島はハンセン病の療養所がある管理された島になってしまった。
そして、小豆島にしか高校がなかった。なので、高校生になると四国に行く。人口が減少、過疎になる。この流れを変えるため。地域を元気にする事イコール地域づくりと捉えた。
その為に、なぜ アートか?
アートはアートがある場所、アートの後ろにある場所、空間の特色を明らかにすることができる⇒人々がそれをめでてくれる⇒人々が注目する⇒地域のおじいさん、おばあさんが喜ぶという流れを作りたかった。

芸術祭を開催しているのは3年間で100日だけ。それ以外の1000日間の活動はどうなっているのか?この点も重要なこと。

12)<国立療養所大島青松園>

全国に13ヵ所あった国立ハンセン病療養所の一つ大島青松園。
そのような歴史がある大島や、手島が 瀬戸内国際芸術祭の開催地に入る事が意義があると考えた。
島の人たちの想い。それは自分たちの記録、記憶を残したい。
この島に子供達が戻って来て素晴らしい島になって欲しいというものであった。

15)<ろっぽう焼>

島の人たちがはじめた事はたくさん。その中の一つが大島の砂で焼いたろっぽう焼きの復活

17)<木造ボートの展示>

島の回りで釣りをしていいという許可が出た。そのボートを、床を抜いて、下から覗けるように展示した。

20)<解剖台(14寮跡)>

療養中に亡くなった方々を解剖するのに使った台の展示。
1980年代に解剖室が解体された際に海に放棄されたものを近年引き揚げ展示したネガティブな展示。

22)<田島 征三「青空の水族館」>

いろいろな活動

27)<島キッチン>

豊島産業廃棄物の島。色々な意見があり、長老たちと若者の仲が離れ、各集落 仲も悪かった。そこで作ったのが「島キッチン」
島キッチンで誕生日会をスタート。
地元の食材、丸の内ホテルの総料理長の指導を受け、料理を工夫。誕生日会は月に1回やっていった。だんだん人が集まるようになった。それでも毎回違うものでないと人がこないので、いろいろ工夫した。吉本も呼んでやった。これはいい事例。

33)<男木島>

子供が減り、小中学校が閉校となった。
昭和40年会という名前で、昭和40年代生まれの元気なアーティスト達が廃校を使ってワークショップをスタートした。

40)<男木小・中学校再開>

自分の親の島が話題になって、子供達が喜んだ。その活動が話題になった結果、男木島に移住が増え、2014年4月7日学校が再開となった。
日本で初めてのケースである
これらがいままでのトピック

44)<瀬戸内国際芸術祭2016 会場>

芸術祭の会場の中で、ステークホルダーは10箇所ある
この調整が大変

46)<瀬戸内アジア村>

48)<タイ・ファクトリー>タイを中心にやる

49)<アジアパフォーミングアートマーケット>

アジアの大道芸を各所で展開する。これはとても人気がある。

66)<瀬戸内 食のフラム塾>

人々を食でつなげる企画
なんで食に力を入れるのか?地域の事が一番分かるのは食であると思う。
その場所で食べる食は世界一。食事を作るお母さんたちが前に出てくれという考え。

70)<讃岐の晩餐会>

72)<JR西日本観光列車>

企業もそれぞれがんばりはじめて、様々な企画がでてきた。

74)<三越伊勢丹>

三越伊勢丹が瀬戸内国際芸術祭をメインに支援する。今年一年は瀬戸内国際芸術祭一本でやりたいと言っている。
越後妻有はIT企業が支援してくれる。
今のおしゃれは、地方 農業、芸術、飲食である。伊勢丹はお客様が何を欲しているかを知っているという事だと思う。

75~)<各島展開 直島>

ここからは各島での展開
直島はベネッセハウスミュージアムや直島銭湯など様々な展開。
直島銭湯は財政的にも儲かっている良いケース。

89~)<各島展開 豊島>Sea of time

豊島美術館。
この美術館は世界で一番人気があると言われている。
水がぷっぷと垂れてくるだけの美術館。それをテーマにした美術館であるが、それを実現できる技術が実は凄い。
地域の建築労働者の技術の賜物である。
美術をきっかけにするが、地域再建 豊かな島を目指すものである。

113~)<各島展開 女木島>

118)<段々の風>

段々畑の後にアートと作っているが、実は、人がいなくなって、段々畑が無くなっている様を表している⇒それへの気づき。これが大事である

139~)<各島展開 男木島>

141)<男木島の魂での結婚式>

2011年 静岡の女性と鹿児島の男性が男木島で出会い結婚することになり、その場所として、男木島を選んだ。瀬戸の花嫁以来 30年ぶりの結婚式。
島をあげて大歓迎。

142)<オンバ・ファクトリー>

細い坂道が多い男木島では日常生活にオンバ(乳母車)と呼ばれる押し車が欠かせません。このオンバにペイントを施したアート。生活に溶け込んでいるアード。

151~)<各島展開 小豆島>

181~)<各島展開 大島>

188~)<各島展開 犬島>

203~)<各島展開 沙弥島>

213~)<各島展開 本島>他 多くの島での展開をスライド紹介

世界のスーパースターがなんで参加してくれるのか?
自分たちの出生地でも過疎が起きている
リピーターが増えているのは、都市住民が地域・地方を求めているから。
アートは赤ちゃんのようなもの
手間がかかる。でも おもしろい。
弱いものを守りたい人がつながっている。

人間が、自然・文明と関わる術こそが「美術」である。
美術が文明と人間のかかわりあらわす技術としてあらわれてきた。

多くの人が関わりたいと言ってきて、観光のおかげで、地域の人が喜びを感じるようになってきた。アート、ひと、パフォーマンスが結びついてきた。

妻有等でもファンドレイズ(=資金調達)はものすごく大変。
そして、政策立案能力は市町村にはない。自分はそれらを結びつける役割を果たしてきたと思っている。

私は、マズローの5段階の欲求の先にある第6の欲求は コミュニティだと思っています。

そして、そのコミュニティでのキーワードは
ネクストジェネレーション、グローバル、ダイバーシティである。
都市に欠けている「コミュニティ」が地域には存在している。

以上

 

第113回樫の会例会 日時:2015年12月21日(月)18:00~糖業会館

資料配布:【有】
講師:長谷部恭男氏 (早稲田大学教授)
講師:藤原帰一氏 (東京大学教授)
演題:「新安保法制をどう考えるか」
司会:丸山徹 (慶應義塾大学名誉教授)

 

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講師:長谷部恭男氏

(早稲田大学教授)

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講師:藤原帰一氏

(東京大学教授)

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藤原帰一先生

新安保法制は憲法解釈の問題であり、一時点で過半数を持っているというだけで憲法解釈を変更するべきではない。
今回は民主党の一部や公明党を含めた合意ができており、かなりの多数となるので法案に賛同できる。
中国は自衛隊が米軍と一緒に行動すると考えていることから、新安保法制に今更反対する理由はないと思われる。
吉田ドクトリンとは①軽武装②経済復興のためのアジア市場開拓、の2点からなる。
軽武装とは、軍の復活は経済的復興の妨げになるため、米軍を使って日本の安全を確保しようということ。
経済復興のためのアジア市場開拓とは、中国との関係を改善し、中国への経済進出を目論むことであったが、米国の反対と中国に貿易ニーズがなかったことから、失敗に終わった。
福田ドクトリンとは、東南アジアに経済外交によって進出しようという考え。
安倍ドクトリンとは西側同盟の一員として、人権・民主主義を重視し、中国に対抗しようという考え。
トルコにNATOの難民キャンプを作り、日本が支援するというアイデアがあった。しかし官邸は興味を示さなかった。
安倍政権は軍国主義ではないが、憲法改正、日ロ国交正常化、北朝鮮拉致被害者奪還の意欲は持っている。
日米安保は日本が米軍を傭兵としていることから、日本の立場を弱めている。
具体的には米国に見捨てられる恐怖と、米国に巻き込まれる恐怖がある。見捨てられる恐怖を払しょくするため、日米安保強化に進まざるを得ない。
米国側は大統領府・国務省よりも、国防省が新安保法制に積極的である。大統領府・国務省は、日中紛争に米国が巻き込まれるリスクを懸念している。
新安保法制は安倍政権にとって、憲法改正の一里塚と言える。
新安保法制が成立しても、中東・アフリカの混乱には日本が距離を置く姿勢は変わらない。

 

長谷部恭男先生

新安保法制は憲法違反であるばかりでなく、立憲主義の否定であり、これが最大の問題。政府を縛るべき憲法を、政府が解釈変更するのは立憲主義の否定である。
解釈改憲に道を開いた以上「憲法違反だから徴兵制はやらない」という主張に説得力はない。

日本が外国から攻撃を受け、それに反撃するのは個別的自衛権であり、抑止力を高めるための武力行使の条件ははっきりさせるべきである。そうしないと偶発事故のリスクが高まることになる。

国連加盟により個別的自衛権を行使するつもりで憲法は公布された。
自衛隊は発足当初はゼロからのスタートであったため、やって良いことを列挙するポジティブリスト方式でスタートした。その際個別的自衛権の行使は許されるが、集団的自衛権の行使はポジティブリストに書かれなかった。
ポジティブリスト方式が不自由・不便であるならば、改憲するしかない。
憲法と集団的自衛権の関係は道理の問題である。損得の問題として考えれば「必要の前に法無し」だが、集団的自衛権についてはその必要性を感じられない。

 

 

第112回樫の会例会 日時:2015年11月11(水)18:30~

資料配布:【有】
講師:雨宮正佳氏 (日本銀行理事)
演題:「量的・質的金融緩和の成果と課題」
司会:白川浩道氏 (クレディスイス証券株式会社 チーフエコノミスト)

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講師:雨宮正佳氏

(日本銀行理事)

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司会:白川浩道氏

(クレディスイス証券株式会社 チーフエコノミスト)

 

日本銀行の量的・質的金融緩和政策について樫の会でお話しするのは、この政策導入直後の2013年7月以来、2年4か月ぶりになる。前回の講演テーマは「挑戦と課題」であったので、今回はそれを受けて「成果と課題」とした。

以下、資料の補足。

P1

日本銀行の長期国債保有残高を年間80兆円増やすためには、償還分の買い替えを含めて110~120兆円の買い入れが必要。国債の年間発行額ほぼ全額に相当する規模を市場から買い入れていることになる。

各国の中央銀行のバランスシートの規模をGDPと比較すると、米国25%、ECB25%に対して、日銀は70%を超えている。こうした数字からも、日銀の政策がいかに巨大なものかがわかる。

P2、3

原油価格の変動による影響を均せば、日本は15年間デフレであった。これを克服するために、日本銀行は、ゼロ金利、量的緩和、包括緩和と順次政策を展開してきた。最後に、現在の量的・質的金融緩和に至った。

デフレの原因については「マネー派(マネー不足を重視)」と「構造派(人口動態、新興国との競争等の構造変化重視)」の対立が続いており、どちらが正しいか現時点ではまだ結論は出ていない。ただ、原因はともかく、デフレの均衡点から抜け出すためには、家計や企業に定着したデフレ期待(物価観)を打ち破ることが先決。

期待(人々の物価観)を政策で変えた例は、①ニューディール政策、②高橋財政、③ニクソンショック、④ボルカ―ショックなどがある。そこから得られる教訓は、第一に、物価観を変えることができるのは、金融や為替を含めた広い意味でのマネタリーアレンジメントの変更であり、その意味で中央銀行の職務であること、第二に、それまでとは不連続な大きな政策が必要であること、第三に、政策の効果について不確実性が高いということ。

P4,5

消費者物価の動向を見ると、エネルギー価格を除けば1%程度まで上がってきている。従って原油価格下落の影響が剥落する16年度後半には2%程度の達成が視野に入る。当初の見通しより時間がかかることになるが、量的・質的金融緩和の開始時点では、原油価格のこれほどの下落や消費増税後の消費落込は想定していなかった。

また東大・一橋物価指数によると、去年の4月の物価上昇には消費者がついて行かれずにその後物価が下落したが、今年の物価上昇には消費者がついてきている。家計や企業の物価観は変わりつつある。

ただしリスク要因として、世界経済のスローダウン、FEDの利上げ、賃金動向には注意が必要。

P6

2%はインフレ政策ではなく、消費者物価指数であらわした「物価安定」の定義。指数には上方バイアスがあるし、大きなマイナス金利を実現することは困難なので「のりしろ」も必要。これらを合わせて考えると、物価の安定とは「ちょっとプラス」に相当。

その大きさが2%でなければならない明確な根拠はないが、各国の共通目標が2%である以上、日本だけが低いインフレ目標を設定すれば長期的に円高リスクを招くことになる。

物価動向をみる上で重要なのは「基調」の判断であり、対象とする指標を一つに絞ることはできない。また万能な物価指数を作り出すこともできない。

P7

いずれ、デフレから脱却して金利が上昇しても、それが成長率の改善と同程度であれば、GDPに対する国債残高の比率は悪化しない。

比率が拡大するのは、経済の実勢から離れて長期金利が上昇する場合。それが起こるのは、財政再建に対する市場の信認が悪化する場合か、日銀が出口政策に失敗して金利上昇を招く場合。したがって、出口との関係でも財政の健全性確保が重要。

P8

出口政策の手段はいくつもあるので、手段に困ることはない。例えば現在では日銀当座預金に付利をしているため、国債を売ることなく短期金利をコントロールすることも可能である。出口政策の難しさは、いつ、どの手段を用いるか、どのように市場とコミュニケートするか。それらは出口の段階における経済・物価情勢次第なので、今から決め打ちすることはできないし、不適当。それが「出口について議論するのは時期尚早」といっている意味。

FRBの出口政策は、当初バランスシートの縮小が先で利上げはその後との方針であったが、市場の動揺を招いたことから、2014年になって利上げが先でバランスシート縮小を後にするよう方針を変更した。

P9、10

企業収益は好調で、労働市場の環境も良いが、デフレ脱却にともなって、潜在成長率の低さという日本経済の真の課題が浮上してきた。

企業収益は良好だが、設備投資や人件費は上向かずに現預金が積みあがっている。企業がポストデフレ時代に向けた積極的な戦略をとることが、デフレ脱却のためにも、また潜在成長率引き上げのためにも重要。

 

 

第111回樫の会例会 日時:2015年9月15日(火)18:30~

資料配布:【有】
講師:小塩隆士氏(一橋大学経済研究所教授)
演題:「持続可能な社会保障ヘ」」
司会:池上直己氏 (慶應義塾大学名誉教授)

20150915-01

講師:小塩隆士氏

(一橋大学経済研究所教授)

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司会:池上直己氏

(慶應義塾大学名誉教授)

講演内容

以下 スライドに従って説明

1.社会保障と税の一体改革

1)一体改革の前提(政府による説明)

半世紀前には65歳以上のお年寄り1人を9人の現役世代が支える「胴上げ」型社会から近年3人に1人の「騎馬戦」型になり、2050年には1人に1.2人の「肩車」型が見込まれているというもの。

2)一体改革の到達点

現時点では、その内容は消費税率の5%引き上げにほぼ尽き、その増税分の使途のうち社会保障の充実が1%程度のみ。要するに持続可能性が保障されたわけではない。

3)消費税は問題解決の切り札か

消費税分だけ国債発行が減少し、次の世代へのツケが減少するとしても、消費税分だけ貯蓄が減少するのであれば、人々の効用や次の世代に受け継ぐ富は大きく変化しない。

むしろ、社会保障・税のあり方を一方的に見直すべきであり、社会保障・税を「再分配政策」として全体的に捉えてみる必要がある。

4)日本の再配分政策の問題点

日本はジニ計数・相対的貧困率とも、再分配後の国際的順位が再分配前の順位より悪化しており、再分配政策がうまくない国と言える。

また所得格差は年々拡大しているが、日本の再分配政策は税よりも社会保障制度に負っている部分が多く、かなりの部分が年齢階層間の所得移転(年金、高齢者医療、介護など)。

それ以外の再分配は小規模であり「子供の貧困」「高齢者の貧困」を中心に、貧困問題が十分に解消されず。

しかも、年齢階層間の所得移転すらも、少子高齢化で維持が困難に。

⇒社会保障制度についても基本的な見直しが必要

 

2.社会保障改革の基本方針

1)社会保障の存在意義

社会保障は、疾病、貧困・失業、高齢時における所得稼得能力低下のリスクなど社会で発生する様々なリスクに対する社会的な「リスク分配」装置であり、「リスク回避的」な私たちにとって有用な仕組み

2)社会保障拡充の歴史的背景

個人を構成単位とする市民社会の成立により、リスク分配が個人だけでは対応できないので、政府(国家)がリスク分配の仕組みを設定

3)社会保障は「親孝行の社会化」の仕組み

社会の様々なリスクは高齢時に集中的に発生するので、社会保障は、その財源構造上、若年層が高齢層を扶養する仕組み、すなわち「親孝行の社会化」であり、若年層から高齢層への所得移転である

4)「親孝行の社会化」としての社会保障の問題点

社会保障が充実していけば、老後に自分の子供の世話になる必要がなくなるので、(手間のかかる)出産・子育てを忌避する。だから、少子化は、社会保障拡充の帰結でもあるのではないか。そもそも親を養う動物は人間だけ。

一方、社会保障は、子供の従順な再生産を前提にして出来上がっており、社会保障の自己矛盾的な性格である

5)社会保障の自己矛盾は克服できるか

経済学的には、高齢層向けの給付削減と若年層の負担軽減が必要。しかし、”シルバー民主主義″の下では政治的にはかなり難しい

6)民主主義の生物学的限界

“シルバー民主主義″の下では、高齢層に負担増を求める改革は人口構成から見て極めて困難。人口減少が進む状況下では、民主主義は高齢層の利益を過剰に反映し、社会保障の財政基盤を脆弱にするなど世代間格差を広げているのではないか

7)「世代間格差」は存在するか

しかし、実際には、高齢層が給付の増加を享受し、現役層が負担の増加に苦しんでいるという構図では必ずしもない。むしろ経済を成長させたのは今の老人世代。今の現役世代はその享受を受けているのが現実。高齢層現役層は「対立」ではなく「協調」している面もある。

問題にすべきなのは、現時点における高齢層と現役層との間の対立ではなく、”現在世代”と”将来世代”との間の対立。こっちの方が重要。

8)「国民純貯蓄」に注目してみる(データーと数式で説明)

国民純貯蓄は1990年代をピークに急激に減少しており、私たちは将来世代に残すべき富に手をつけ始めているのである。

9)問題解決に向けて

限られた資源をできるだけ効率的に、しかもできるだけ公平な形で活用することを目指すしかない

いわゆる「世代間格差」論は、問題提起としては重要だが、「世代」で話を区切ると改革への政治的パワーになりにくい

「困っている人を困っていな人が助ける」という単純素朴な方針で、すべての世代の理解を得る

そのためには「困っている人」「困っていない人」をどう見極めるか

基本的にはフロー所得がメルクマールとなるが、理想的には保有資産にも注目すべきであり、「マイナンバー」の導入で、そのためのインフラは整いつつある

生物学的制約そのものを軽減する工夫(1):子育て支援

・社会保障の問題は、子供数が順調に増加すればすべて解決できる

・子育て支援はむしろ、出産・子育てという人間らしい営為を社会全体で援助するという発想で政策を進めるべき

生物学的制約そのものを軽減する工夫(2):高齢者の就業機会の拡大

・働けるのに働かない人がいることにより、世の中で「困っている」人が救われていない面はないか

・生産と消費を回復させ、次世代に富みをできるだけ残そうという発想で議論してもよいのでは

 

3.まとめ:全体的なメッセージ

1)少子高齢化は、社会保障が内包している問題を顕在化

2)社会保障の持続可能性を高めるためには、将来世代への負担の先送りをできるだけ軽減する必要

3)シルバー民主主義の制約下で少しでも改革を進めるためには、「困っている人を困っていない人が助ける」という視点も重要

以上

 

第110回樫の会例会 日時:2015年7月15日(水)18:30~

資料配布:【有】
講師:橘川武郎氏(東京理科大学教授)
演題:「日本のエネルギー政策をめぐって」
司会:茂木愛一郎氏(前慶應学術事業会社長)

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講師:橘川武郎氏

(東京理科大学教授)

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司会:茂木愛一郎氏

(前慶應学術事業会社長)

 

レジメをベースにお話しされたので、各ページに補足すべき内容のみ記録しております。

P2
エネルギーミックスとは、電源ミックスと、1次エネルギーミックスの2つの意味がある。
麻生内閣の方針である2020年に再生エネルギー構成比20%と比べると、2030年に24%とした経産省の目標は過少と言える。

P3
再稼働候補の原発は30基。2030年時点で40年廃炉基準に該当しないのは建設中を含め20基あり、これらが70%稼働すれば2030年の原発依存度は15%になる。従って2030年に原発依存度20%を達成するためには、廃炉基準を60年にする必要がある。
日本はプルトニウムを40t保有しているが、非核保有国でありながら国際的に保有が認められている点がイラン・北朝鮮とは異なっている。

P4
Safetyの面からは、新しい原子炉にリプレースすることが安全につながる。リプレースして原発構成比を20%に抑えるのがS+3Eの充足条件である。
Economyの観点で言えば、原発の構成比は20%に過ぎず、化石燃料をいかに安く買うかがポイントとなる。
Enviromentの面からは、石炭が最もCO2を排出するので、高効率石炭火力発電の技術を輸出することが重要である。
Energy securityの面では、2030年にはfit(固定価格買取制度)は無くなっているので、市場価格でエネルギーコストを議論することに留意すべき。

P5
化石燃料は輸入に依存しており、国内産での代替は不可能である以上「原発再稼働か再値上げか」の選択をいずれ迫られる。

P6
震災後、火力燃料費は3.6兆円から7.2兆円に増加したが、輸入量はそれほど増加していない。原発の構成比を考えれば、再稼働だけでは電力コストの上昇を抑えられず、燃料費を下げなければ電力コスト抑制は不可能。

P9,10
世界全体でみれば石炭火力の構成比がトップだが、構成比は国によってかなり異なっている。例えばブラジルは圧倒的に水力に頼っており、ドイツは国産の石炭があるためエネルギー輸出国。
日本は技術輸出により海外の石炭火力効率化・CO2削減を支援し、その結果を日本の排出量確保につなげるべきであり、そのために政策金融の後押しも必要である。

P13
米国ではシェールガス革命により石炭より石油の方が安い状況となっている。これを受けて欧州は排出権を購入し、安価な輸入石炭にシフトしており、天然ガス需要の低迷を招いている。

P14
日本の再生エネルギーには2つのタイプがあり、タイプAは高稼働率で発電量の変動が少ないという「良いエネルギー」だが、国立公園の掘削制限等の規制や、温泉業者の反対活動等の障害を克服しなくてはならない。
これに対しタイプBは低稼働率で発電量の変動が大きいという欠点を抱えている。

P16
分散型電源を試みている北九州市では、事業体が送電線を自前で持つことにより需給調整が可能となり、うまく機能している。

P19.20
今後のエネルギー業界は、天然ガスが主戦場となっていく。

 

 

第109回樫の会例会 日時:2015年5月18日(月)18:30~

資料配布:【無】 ※ご講演データをご希望の方は事務局までご連絡下さい。

講師:高原明生氏(東京大学教授)
演題:「戦後70周年の日中関係」

司会:唐木圀和氏(慶應義塾大学名誉教授)

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講師:高原明生氏

(東京大学教授)

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司会:唐木圀和氏

(慶應義塾大学名誉教授)

 

日中関係は「協調と対立」から「強靭性と脆弱性」を併せ持つ更に複雑な時代に入った。今こそ正確に理解を深めることが重要である。(以下スライドに従って説明)

 

1.日中関係改善の兆し

安倍-習会談-第一回会談 2014年11月 ―2012年の反日デモ当時から比べれば状況は改善しているが、ここに至るまでは大変であった。中国側から、靖国の問題と領土問題が条件となっていた。そのような状況で以下の四点の一致にて条件をクリアした。

四点の意見の一致

1) 双方は,日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。
2) 双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。(→これは靖国問題の件を指すが内容は玉虫色)
3) 双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し,対話と協議を通じて,情勢の悪化を防ぐとともに,危機管理メカニズムを構築し,不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。(→これが領土問題についてであり、もっとも重要であった。前半はお互いが都合よく解釈可能)
4) 双方は,様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して,政治・外交・安保対話を徐々に再開し,政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。(→対話の再開)

第二回会談 2015年4月

4月22日安倍-習近平会談(於ジャカルタ)
笑顔の会談であり、中国側から日中関係の改善を評価する大変なごやかな会談であった。
(オフレコ発言としてお互いの夫人に言及する会話があったほど和やかであった。)
但し、今後について楽観できるものではなく、(高原教授)自身は双方の無理解を強く懸念

日本の立場は不変

力による現状変更は受け入れられない
島や靖国神社の問題により、大局に影響が出たり交流が停止してはならない
日中関係改善は双方の責任

以上のポイントは2014年9月の安倍総理国会所信表明演説でも要約されている。
日中関係改善の兆しというが、日本の立場は不変であり、中国側が歩み寄ってきているのが実情。これまでの中国側の無理解ははなはだしい。

中国の歩み寄りには諸要因があり、まとめると以下の4点

1) 軍事―2014年5.6月の軍用機のニアミス発生から事故発生の回避の緊急性を認識
2) 経済―成長減速、地方財政困難等から政治が経済交流に悪影響と認識
日系企業投資額:14年1-9月で前年比42.9%のマイナス。
3) 政治―習近平政権の権力基盤強化の必要性
・反腐敗キャンペーン
・権力の一極集中―習近平をトップとする部門横断的組織の新設
公務員の士気低下も。俗に「宝くじ」と揶揄→「誰が当たるかわからない」
しかし習金平は反腐敗政策の経済への悪影響は否定。本当に無知なのか経済の停滞は李首相のせいと言いたいのかどちらか。
胡錦濤政権の時代も、政権が安定している時は日本に対する姿勢は柔軟であった。
4) 国際―米国との新型大国関係の発展が難航している点と、戦略上の衝突(近海、西太平洋)は解決が困難であるという点について双方が理解。
米国が理解する中国の「中核的利益」は台湾、チベット、ウイグルまで。南シナ海と尖閣は認めていなかった。
対隣国(日、比、越)強硬姿勢への内部批判があり。「周辺外交」の強調へ動いている。日本とだけは仲良くしようというリバランスが発生。
・アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)
・アジアインフラ投資銀行(AIIB)
・「一帯一路」(シルクロード基金)等
近隣外交の言行不一致。実際にやっていること(南シナ海、東シナ海等)はかなりハード。

 

2.今年の日中関係の攪乱要因

南シナ海での領有権、制海権争い

大々的に人工島建設を実行中(他の岩礁が他の国々に比べてたいしたことがない焦りからか)←ASEAN首脳会議議長声明で懸念表明(4月27日)。米、12海里内の航行を検討(5月12日報道) 等、米中関係に影響を及ぼしている。

歴史問題

「お詫び」なき安倍総理米議会演説への反応――部門間での反応に大きな相違

 外交部門はマイルドな反応だが、宣伝部門は過激な報道を繰り返している。一旦 安倍首相を悪魔化してしまったので、国内の政治のため反日ナショナリズムを利用している。

二分論というロジック

習近平発言:「南京大虐殺の犠牲者のために国家追悼式を行うのは、善良な全ての人々に平和を願い、平和を守る気持ちをもってほしいからであり、過去の恨みを引き延ばすためではない。中日両国国民は子々孫々に至るまで友好関係を保ち、歴史を鑑とし、未来志向で、人類の平和のためにともに貢献していかねばならない・・・我々は、ある民族の少数の軍国主義者が侵略戦争を発動したからといって、その民族を敵視するべきではない。戦争の罪の責任は少数の軍国主義者にあるのであって、人民にはない」(於14年12月南京大虐殺受難者国家追悼式)
→この発言にあるのは二分論というロジック。戦争の罪の責任は少数の軍国主義者にあり、日中双方の人民にはないというロジック。ここ数年二分論は下火であったが、これを打ち出して来たのが今回の発言。

習近平は歴史カードを切るのか、切らないのか

以下の要因がポイントである

経済成長の減速は明らか
2014年より「社会矛盾現象」再び増加
全国的な世論の注目を集めた「社会矛盾衝突熱点事件」 は400件ほども
財政の行方も不透明
中央政府にカネがあれば地方の制御は可能。歳出ニーズは増えているが経済は減速しており、徴税強化の方向に進んでいる。

 

3.戦後70周年の迎え方

憎悪と警戒ではなく、和解と協力をテーマにすべきである。
和解の必要条件は「加害者の衷心からの謝罪」であると同時に、十分条件として「被害者による謝罪受入れ」が大事である。

中国の首脳が日本の謝罪を受け入れた唯一の例として、2007年4月温家宝国会演説がある。
「・・・歴史を鑑とすることを強調するのは、恨みを抱え続けるのではなく、歴史の教訓を銘記して、よりよい未来を切り開いていくためであります。中日国交正常化以来、日本政府と日本の指導者は何回も歴史問題について態度を表明し、侵略を公に認め、そして被害国に対して深い反省とお詫びを表明しました。これを中国政府と人民は積極的に評価しています・・・」(2007年4月12日 温家宝国会演説(抜粋)

これこそが、和解の十分条件であり、我々日本人も記憶に刻むべきものである。
戦後70年の協力:数多あるが、よく知られず。日本も中国も近代史の教え方が足りない。そして協力による双方の利益をもっと広報すべき。つまり国民レベルで、中国は戦後教育をもっとすべきであり、日本は戦争に至るまでの近代教育をもっとすべきで相互の理解を深めることが必要。
自身の北京滞在時の経験でも、中国側は全て日本が悪いと思っている。日本人は何も態度を変えていないと思われている。まさに、日中の認識ギャップは危機的状況 である。

公論外交の重要性

例えば、~2010年9月漁船衝突事件~(スライドご参照)、
この事件についても、中国版、日本版で報道されている内容がまったく違う。中国版では衝突のその日に、当事者が拘束されていて、事実を確認できないはずにもかかわらず、事実とまったく違う内容が図で示され報道されている。このように日本と中国の間に大きな認識ギャップがあることが本当に大変である。

 

4.日本の取るべき中長期的対応

国際的規範の浸透:中国は富国強兵のパラダイムから脱却してもらう。知識交流や留学等による価値観の共有、規範の共有化が大事
戦略的互恵関係の充実:アジアの国際秩序と相互依存を前提に経済交流、非伝統的安保協力、AIIBへ参加等経済を中心とした相互依存度を向上。
力の制約と均衡:バランスオブパワーを保つのが大事。同盟ネットワーク、多国間枠組みから、信頼を醸成し、みんながカンファタブルになる戦略的共生へ。
日本だけが中国にいろいろ言っても聞き入れてもらえないので、以上三点に実効性を与える多国間の取り組みが必要。
公論外交及び真の民間交流を。
日中戦争で加害者であったことを忘れない

以上

 

 

第108回樫の会例会 日時:2015年4月13日(月)18:30~

資料配布:【有】 ※講師の希望により、写真・要旨は不掲載

講師:西村清彦氏(東京大学教授)
演題:「世界経済 三つの地殻変動」

司会:鈴木淑夫氏(経済学博士(東京大学)・元衆議院議員)

 

 

第107回樫の会例会 日時:2015年1月19日(月)18:30~

資料配布:【有】

講師:鈴木孝夫氏(慶應義塾大学名誉教授)
演題:「日本文明が世界を変える-言語生態学的文明論」

講師:鈴木孝夫氏

(慶應義塾大学名誉教授)

司会:山口光恒氏

(東京大学客員教授)

 

人類・社会はどこに向かうのかを鳥瞰的視野で捉えると、欧米文明がもたらした経済発展至上主義・拡張主義・過度の成長の結果として、今日、生態系が崩れ地球規模の弊害が起きつつある状況であり、日本の「感性」が世界を変えて、大動乱を少しでも遅らせる事に役立つのではないかと考える。福澤先生の脱亜入欧論の時代も含め、世界は過去500年間西欧文明に主導されてきたが、その綻びや軋みが見え始めた今こそ、日本が世界にカウンタープロポーザルをする時期だ。

キリスト教やイスラム教の様に他教を受け入れず闘争的な一神教ではなく、やおよろずの神が宿る国、寛容の国、「おかげさま」の国、明治維新という無血革命を成功させた国、「虫」にさえ価値を見出し質素で万民が詩人の国、柔らかでなおかつ先進的な国「日本」、その「感性」が世界を変え、世界を救うことができるだろう。

世界の主導文明の交代
過去500年間、世界は西欧文明主導であった。
日本は過去2千年以上植民地化せず中華文明の影響下にあった稀有な国家、明治維新以降脱亜入欧により西欧文明の影響を強く受けるようになった。
第二次大戦後、米国主導により日本は農業国となるはずであったが、朝鮮戦争・ベトナム戦争の兵站を担うこととなったため、工業国として発展を遂げた。
日本は米国に次ぐ実力を持っている世界2位の大国であり、中国よりも世界に与える影響力は大きい。
日本は過去に英米の石油メジャーを相手に英語で資源獲得交渉をしていたため、ペルシャ情勢を見誤り、イランジャパン石油プロジェクトの失敗を招いた。日本には「国益を守る」という観点での語学教育が欠けている。明治維新以降西欧文明を学ぶため英語、仏語、独語が主流、これからは近隣諸国との関係円滑化のために露語、中語、韓語が必要である。
経済以外の環境や宗教等の重要性が増している現状で、日本が対案を出す時期に来ている。西欧文明は一神教で寛容さに欠け、文明としての陰りが見えてきているが、日本は先進国でありながら多宗教で寛容さを持ち合わせている。戦争で中国・朝鮮には迷惑をかけたが、他のアジア諸国には独立の手助けをして貢献している。
生態系の崩壊を早める成長拡大路線の限界

経済最優先では気候変動・温暖化等の環境負荷や生態系の変化を引き起こし、人間の生活基盤を脅かす。経済発展は限界に達しつつあり、無限の発展は不可能である。

キリスト生誕後地球の人口は2億人、現在70億人。資源の枯渇は必至。

日本の感性が世界を変える
明治維新は革命だが人は死んでいない。死人が出ない革命の良さが西欧中心主義者には理解されない。

米国人には「虫」の表現が少ない。日本語には虫を表す多数の表現があり、虫を食べることもある等、文化の中にも取り込んでいる。

徳川時代の鎖国に学ぶべきことは、他国と戦争をしないために競争が国内に向かい、盆栽・俳句等の文化的な競争・発展が国内で起こったということである。庶民が詩人となったのは世界でも日本だけ。

日本の「おかげさま」の概念は西欧にはない。西欧では「頑張ったのは私」という概念が強い。中近東や東アジア人が日本語を習うと、闘争的でなく礼儀正しくなるため「女中になったようだ」と言われる。仏語の「タタミゼ」という言葉に象徴される。

日本が長寿社会になったということは、日本が成功したことの一つの証である。

理科系の学問は文化・文明と関係がないため、日本人でも世界で一流になれる。文化に関連する学問は、自己主張が強くない日本人にとって不得手である。

西欧文化や英語を学ぶと、日本人も西欧文明に取り込まれて自己主張が強くなり、ひいては多消費社会になってゆく。

人間と自然環境との間には文化が挟まっている。環境が変わっても人間が生きていられるのは文化が緩衝材として機能しているからであろう。

以上

 

第106回樫の会例会 日時:2014年11月10日(月)18:30~

資料配布:【有】

講師:石破 茂氏(地方創生担当 内閣府特命担当大臣、国家戦略特別区域)
演題:「時局」

講師:石破 茂氏

(地方創生担当 内閣府特命担当大臣、
国家戦略特別区域)

司会:太田誠一氏

(元農林水産大臣)

 

講演内容

昨日今日で急に衆議院解散の話が持ち上がった。「11月19日解散、12月21日投票」という具体的な話まで出ている。明日(11月11日)の朝刊一面に注目。衆院は常在戦場だ。
ここ何年かの選挙は、一党の大量当選、大量落選の繰り返し。小泉郵政選挙、民主党政権誕生選挙等、いわゆる振り子現象が繰り返された。国家のためには決してよくない。次の選挙で振り子現象を止められるかどうかがポイント。

直近の衆議院、参議院選挙で自民党は確かに圧勝した。しかし70%の議席を獲得したが政党としての得票率は40%程度。小選挙区制度の特徴ではあるが、決して党の実力を反映している訳ではなく安心はしていない。

振り返ると、自民党が下野した大きな理由は、国民が「一回自民党は出直してくれ」というメッセージを送ったのだと思う。野党時代は長く、辛い反省の日々。「鶴は千年、亀は万年、鳩は1年」とは行かなかった。
野党には、人(財界、首長、役人)が来ない、金が集まらない、ポストが無く、権力が無い。このことをしみじみと実感した。当然メディアの露出(TV出演)も激減(1/5に減った)。野党時代の自民党は毎日が反省の連続だった。「負けに不思議の負けなし」(野村克也監督の言葉)通り、負けた原因を分析し、反省を徹底した当時の谷垣総裁は素晴らしかった。
私の28年間の代議士歴の中で、総理大臣が19人。自身も長官時代を含め3度防衛大臣を務めたが、9ヶ月で4人目だった。自衛官たちは任官に際して、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。」と宣誓を行った人たちだ。それなのに長官・大臣は度々入れ替わるのでは、信頼すら築けない。
農林水産大臣も務めたが1年9ヶ月の間に6人目だった。国際的な交渉の場では大臣がコロコロ代わることは国益に大いに反する。代議士になる前に銀行員を4年務めたが、「社長がコロコロ代わる会社には金を貸すな。」というのが銀行員時代の教えだ。
福田政権時代に75歳以上の医療制度を見直さなければ制度が持たないということで後期高齢者医療制度を成立させた。しかし「後期高齢者医療制度」というタイトルが悪かった。ネーミングひとつにしてもデリカシーが欠如していた。

政治家は難しいことを易しく伝える必要がある。ところが役人は難しいことを難しく語る。いや、易しいことまで難しく語ることを得意とする。

政策は企業にとっての商品と同じ。スーパーのチラシのように一目でわかるようにしなくてはならない。誰が何を望んでいるかを明確にわかりやすく語らねばならない。

地方自治体の役人も中々そういう感覚に慣れてない。今地方創生会議で、平成27年度までに、各地方の目指すべき人口構成、第一次産業の生産性、どうやって収入を増やし、コストを減らすかの具体策をPDCAで回すよう指示。しかしながら霞ヶ関中心の文化にはまったくなじんでない。

有権者(国民)はお客様であるという意識が希薄。自民党本部でさえ「本部に来るお客様に「いらっしゃいませ」「有難うございました」ということさえ出来ていない。

今は、民主党に比べたら自民党がマシなので自民党という状態。今の1年生議員は野党時代の自民党を知らない。まだまだ危機感はある。とにかく振り子現象を止めなくてはならない。

何のために政治家をやりたいのか?の問いかけに「勇気とまごころをもって真実を語る」ことが政治家の役割だ。と答えてくれた渡辺美智雄氏の言葉が心にしみる。

しかし、政治家として真実を見つけ出すことは実は大変難しい。私自身は、消費税はきちんと上げるべきだと思っているし、TPPも原発再稼働も集団的自衛権も賛成論者だ。消費税を上げるべきか、TPPを推進すべきか、原発を再稼動すべきか、集団的自衛権を行使すべきか、それらの答えは自分で見つけ出さなければならない。学者や評論家も真実は言えるが、政治家はこれらの答え、つまり真実を見つけ出し、たとえ世間受けしない答えであっても、勇気とまごころを持って語り、それを実現させることが仕事。

「握った手の数、歩いた家の数だけしか票は出ない」というのが田中角栄氏の言葉。これは事実。鳥取での自分の最初の選挙で5万4千軒回って得票は5万6千あまりだった。

新人議員に有権者との間に物語、エピソードを持てといっている。握手をする、目を見て手を振るだけでもこれはエピソードで、その有権者にとって、その代議士は何なのか誰なのかというひとりひとりにとっての物語がとても大事だ。

国家主権とは?領土、国民、排他的統治機構の3要素。これを失うことは国家を失うことと一緒。つまり拉致問題は国家主権の根幹を否定する重大事項。
外国人参政権の問題があるが、このことは選挙権と被選挙権とセットで議論すべき問題。外国人の為政者を認めるかどうかの問題である。
現在の日本に国民主権はあるのか?田中美智太郎氏の著作にもある通り、歴史的に、王権主権から市民革命を経て国民主権を勝ち取った。国民主権とはつまり、自らが為政者となって判断をして1票を投票する。それこそが国民主権状態の主権者である。現在の日本の国民はそこまで主権者としての役割を自覚して投票しているのか?本当に国民主権なのか?
徴兵制については、現状の軍隊のハイテク技術を駆使できる人材は素人では無理。現状では徴兵制の導入は非効率。フランス、ドイツは同様な理由で徴兵制廃止。
但し、ドイツは、国家を守るのは国民の義務、国民の中に軍が無くてはならないという意識から徴兵制を導入していた。軍と国民の乖離がナチスを生んだ。それを繰り返してはならないという文民統制の意識は徹底している。フランスも兵役に代えて「国防の日」を設けており、一日かけて歴史教育などを行い、これを履修しないと運転免許を交付しない様な制度がある。
日米安保条約は日本が基地提供の義務を負い、米国は日本を防衛する義務を負うという世界でもまれな条約。国家主権である領土を米国に提供することは日本の義務。「米軍は出て行け。集団的自衛権も反対だ。」という左翼の意見があるがこれは矛盾している。集団的自衛権の確立を以って、はじめて米軍撤退が可能となるのである。(安保条約の生みの親とされる)ダレスによれば、「日本国内の基地を自由に使えることが合衆国にとっての利益である。」という事だが、今日でもそうであるかは議論に値する。
日本は大戦の総括・検証をしていない。今こそすべきでないか。天皇はこの戦争は大丈夫か?という判断をする際、当時判断材料を十分に提供されていたのか?当時の米軍の力、日本の軍隊の力の差をしっかり説明されていたのか?戦争に反対していた国民の声は封印されたのではないか?検証すべき。猪瀬直樹氏の「昭和16年夏の敗戦」が参考になる。
日本は今こそ本来やるべき議論をすべきではないか。農業についても食管制度の維持の是非を検証すべき。「第一は政治家、第二に業界、第三に役人が悪かった。」という西川大臣の見識は正しい。地方創生のあり方、国のあり方を再考すべきときである。
江戸時代は独自の産業、財政、文化が地方に存在した。明治以降の中央集権国家体制で本来地方がやるべきことを国がやってきた。人口が増え右肩上がりの状態ではこの中央集権体制が機能してきたが、現状の人口減、縮小均衡下では、もっと地方の独自性が尊重されなければならない。

地方には地域ごとにいい話がたくさんある。皆が知らないだけである。

鹿児島県鹿屋市柳谷という集落や、島根県大田市の中村ブレイス社(義足・義手のメーカー)の様に、独自の技術や産品の販路を築き、補助金なしで再生する地方、集落のモデルケースはたくさんある。

新幹線も高速道路も無い時代、実は地方は元気だった。ポイントは「今だけ、ここだけ、あなただけ」で地方の再生。日本の農林水産業、観光業の発展が地方再生の鍵。

まずは「農業者の共同組織の発達を促進することにより農業生産力の増進~国民経済の発展に寄与する。」という農業組合法の第一条を見直す必要あり。農協ではなく農業を発展させるべきだった。
安倍政権では耳障りの悪いことを訴えても選挙に勝たなくてはならない。決して振り子現象を繰り返してはならない。

以上

 

第105回樫の会例会 日時:2014年9月26日(金)18:30~

資料配布:【有】

講師:深尾京司氏(一橋大学教授)
演題:「失われた20年とアベノミクス」

講師:深尾京司氏

(一橋大学教授)


司会:吉川洋氏

(東京大学教授)

 

【問題意識と方向の構成
以下の3つの構成に従って講演。

 

Ⅰ.需要不足と実質賃金率、輸出の停滞

需要不足
消費税増税後の4‐6月期の反動によりーGDPギャップはマイナス2.3%まで拡大
デフレからの脱却は少し遠のいたところ
総需要の不足創出の方策としては以下が考えられる。
財政政策:需要創出の継続はこれ以上は困難
経常収支黒字拡大ー通貨安と経常収支化により需要不足が解消されるはずであるが、現実にはさまざまな要因により機能していない。
デフレからの脱却と実質金利引き下げによる投資刺激
投資収益率が高くない資本に投資が行われている。生産性上昇を伴わない投資刺激は多額の不良債権を生み出す危険がある。
以上から アベノミクスの方向性は正しいが、以下の点に留意すべきと考える。
短期的には生産性上昇のための民間支出の支援、円安化政策等によるデフレからの脱却を目指すべき。小出しでなく、十分な需要創出が重要。
長期的には生産性上昇や国内立地誘因強化等による。投資収益率の引き上げ、雇用・賃金所得創出等による消費拡大を目指すべき
家計貯蓄は減少したが、企業貯蓄が変わりに増えているのが現状
企業に配当を増やさせて。家計の収入を増やさせるにも刺激策の一つ
実質賃金引き上げのために何が必要か?
70年・90年代には労働生産性上昇にほぼ見合うだけの実質賃金率引き上げが達成された
80年代や2000年以降は労働生産性上昇に比べ実質賃金の引き上げが格段に小さい
特に2000年以降、労働生産性は向上したのに、実質賃金率はほとんど上がらない。
なぜ生産性上昇が実質賃金上昇に結実しなかったか
実質賃金率≒労働生産性×(GDPデフレーター/消費者物価)×労働分配率
労働生産性の減速:
失われた20年において、全要素生産性上昇が停滞
2000年以降は、資本の低収益を反映して資本装備率上昇が停滞したことも大きい
非正規雇用の拡大は、労働の質上昇を阻害している
GDPデフレーター/消費者物価の下落は日本の交易条件
(輸出する財・サービスと輸入する財・サービスの相対価格の悪化をかなり反映)
交易条件を長期的に左右するのは、日本が輸出する財・サービスを、輸入する財・サービスの相対的な需要である
交易条件の悪化を止め実質賃金を引き上げるには、原燃油の海外調達における交渉力を増すと同時に、生産の海外移転の抑制が重要である
日本のように1次産品を輸入し、技術進歩の速い高度な機械や素材を輸出する工業国では、技術進歩に伴って輸出品の相対価格が下落し交易条件が悪化するのはある程度やむを得ない面もある
交易条件を悪化させないためには、プロダクトイノベーションの促進、国内立地の優位性強化、海外進出支援の廃止等が重要
労働分配率の引き上げは可能か
実質賃金率を停滞させたもう一つの要因である労働者分配率の下落は、主に、分母の名目GDPのうち「固定資本減耗(減価償却費)}の増加に起因していることに注目する必要がある。「固定資産減耗」は、非製造業を中心に設備投資で資本ストックが蓄積されたこと、情報通信機器などの減耗の速い資本への割合が増えたことなどで拡大した
一部の大企業では膨大な利潤や内部留保が生じており、賃上げによって労働分配率を上昇させる余地はあるかもしれない。だが、日本企業全体でみると資本収益率は低迷しており、労働分配率を今後大幅に上昇させられるほどの余裕は無いように思われる
実質賃金引き上げに何が必要か

<労働生産性の加速>

企業の新陳代謝の加速、労働市場改革、中小企業における情報通信技術投資や研究開発投資の支援、等による全要素生産性上昇の加速とこれによる資本蓄積の促進
非正規雇用と正規雇用の格差縮小、彼らの熟練形成支援等による労働の質向上
<交易条件悪化の抑制>
プロダクトイノベーションの促進
資産調達における国際交渉力の向上
国内立地の優位性を高める
海外進出支援を止める

 

Ⅱ.人口減少と潜在成長率の引き上げ

1990年代以降、需要不足だけでなく、生産年齢人口や全要素生産性(TFP)の停滞と、これによる資本蓄積の減速で、日本の経済成長を3%程度低下
今後、労働投入は2020年まで年率0.4%程度減少する見込み
そのような状況下、2%成長を達成するためには、
TFP上昇を1.2%へ、女性・高齢者の就業拡大、人的資本蓄積等で労働投入増加の寄与をマイナス0.3%からプラス0.2%寄与、これらによる投資収益率の向上で資本蓄積の寄与を0.6%へ等をする必要がある。
製造業、非製造業でみると、90年代以降製造業でTFP上昇が減速し、非製造業では昔からTFP上昇が停滞。米国と異なり日本ではIT技術導入による非製造業のTFP上昇加速が起きなかった。
実質実効レートで見ると円はそれほど割高ではないのに、近年貿易収支が大幅に悪化した。すなわち、安いのに海外で輸出が伸びないということ。
TFP上昇の低迷によって平均費用で見た米国と比較した日本の製造業の国際競争力は、1991年と比べて10%程度下落した一方、ドル換算した日米製造業労働コストは日本が10%以上割高になった。
すなわち、日本は、賃金を抑えることで競争力を一部回復している状況
製造業では大企業のみが好調。大企業はTFP上昇を加速させている一方、中小企業が取り残された。
日本ではもともとR&Dが大企業に集中。多くの中小企業がR&D・国際化に出遅れ。
さらに、経済の新陳代謝が機能せず。生産性の高い工場が閉鎖され、生産性の低い工場が残った。
地域別にみると負の退出効果は、大都市圏や産業集積地で生じている
対外直接投資による生産の海外移転が大企業の国内生産縮小と負の退出効果を招いている可能性がある
非製造業でも企業間の生産性格差が拡大
日本では情報通信技術(ICT)革命が起きなかった。
流通業のICT投資/粗付加価値比率は主要先進国中最低
電機産業を除く製造業のICT投資/粗付加価値比率も最近まで低落していた
日本は、サービス業における経済競争力獲得のための無形資産投資(組織改革、Off-JT、広告宣伝等)が特に少ない。
中小企業を中心にICT投資やR&D、Off-JT等を支援することがおそらく重要
非製造業における生産性長期停滞の原因は、新陳代謝機能の停滞、情報通信技術(ICT)投資の低迷、無形資産投資が少ないがあげられる。
非正規雇用の増加。非正規労働者に対する企業訓練は少ない。転職もあり、人的資本が十分に蓄積されない可能性。更に非正規労働者の限界生産価値は賃金率よりも低い。
非正規雇用の増加は個々の企業にとっては合理的でも経済全体では膨大な損失を将来生み出す。
潜在成長率引上げのために何が必要か
ICT投資や無形資産投資を支援
国際化の研究開発に後れを取った中小企業については輸出・研究開発投資の支援やM&Aによる改革も有望
市場の淘汰機能を阻害しない企業支援。一律支援は望ましくない
若い企業の方が旺盛に雇用を創出していることに留意すべき
起業家の育成や企業創設の支援
日系多国籍企業の国内回帰や外資系企業の誘致を促進
労働市場改革及び女性労働の活用や高度な海外人材の受け入れ等、他の先進国に大きく後れをとった分野で政策を発動すれば、十分な需要・雇用の創造と高成長が達成できる。

 

Ⅲ.高齢化と地域経済

65歳以上人口比率は2010年で全国平均=23.0%
その中で、歴史的に見ても秋田や島根の高齢化度は全国平均と大きく異なっている。島根の65歳以上人口比率は、全期間を通じて東京のおよそ2倍、全国平均より4割程度高い。東京の20年ぐらい先の状態になっている。
高齢化県ほど財・サービスの純移入率が高い傾向がある。その原因は政府による負の貯蓄と積極的な投資である。その政府貯蓄が大きく負になるのは、公的年金と医療費の純受取が大きいため。高齢化県ほど税収が少ないことも原因の一つ。
多くの高齢化県が赤字で、東京が高齢化県を補っているという状況。
15年後の全国平均65歳以上人口比率は現在の秋田・島根と同水準になる。しかし、現在、秋田・島根が享受している財・サービスの純移入や年金・医療費の純受取を、日本全体で享受することは不可能であろう
東京のように高齢化が遅れている地域はTFP水準、資本係数ともに高いため、高齢化地域より労働生産性が高い。しかし、現在高齢化県が享受している所得移転の水準を将来も維持することは不可能であり、高齢化の遅れている地域の居住者が経験するであろう老後は厳しい状況になると考えられる。

以上

 

第104回樫の会例会 日時:2014年7月1日(火)18:30~

資料配布:【有】

講師:白川浩道氏(クレディ・スイス証券株式会社 チーフエコノミスト)
演題:「消費増税と日本経済の展望」

 

講演内容

(はじめに)

増税後3ヶ月が経過、メディアの論調は総じて肯定的。よいニュースは朝刊で大きく、悪いニュースは夕刊で小さく扱われている。ジャーナリスティックな指摘はするつもりはない。因みに講師は、消費税導入検討時の有識者会議の委員として3%の増税に反対し、毎年1%ずつあげるよう提案した立場にあったが、その様な意見は会議メンバーの8%に過ぎなかった。

講師:白川浩道氏

(クレディ・スイス証券株式会社 チーフエコノミスト)


司会:鈴木淑夫氏

(鈴木政経フォーラム代表)

 

1.企業収益、分配率、生産性と賃金環境

日本の企業収益は改善している。これは、円安による輸出企業の売上増と、主に販管費の削減によるコスト削減効果が大きい。中でも人件費の削減効果が大きく寄与した結果であり、今後そうしたコストを増やしても増益になるかどうかは不明である。
労働分配率の水準はバブル崩壊前80年代、リーマンショック前03-07年と比較してもまだ高い水準にある。つまり企業は依然として人件費削減意欲が高い状態にある。
円安により企業の貯蓄は大きく拡大しているが、労働分配には廻らず貯蓄や自社株買いに留まっている。直近の日銀短観では5%程度の設備投資増加が観察されているものの、減価償却相当分の設備投資が行われているのに過ぎず、内容的にも来たるべき労働力不足に備えて人件費を削減し、労働生産性を上げる様な設備投資となっている。
今春闘の結果は、一部大企業の賃上げ、ボーナス増加はあったが、報道されている3%程度の賃上げは定昇を含んでおり、ベアに関しては大企業0.3%中小企業0.2%と低く、賃金は横ばいに等しい。しかも2014年日銀短観では企業業績は減益の見込みであり、人件費抑制の傾向に拍車。したがって賃金上昇の余地はきわめて少ないといえる。

 

2.労働需給の改善と賃金上昇圧力

アベノミクスにより景気が回復し人手不足状態が顕在化したというのは正しくない。

6・7年サイクルの中期循環的な労働需給改善を受け、時間当たり賃金が上昇したことによる人手不足感というのが事実。時間当たり賃金が最も上昇したのはパートタイマー。例えば、外食の「すき家」のバイトの時給は1200円から2000円に跳ね上がった。外食、建設業界の非正規労働者の賃金が特に上昇し、そうした限界的な分野では人手不足感が出ているものの、製造業を含め全体的な状況としては依然として人余り状態。マクロ的には人材不足が起きている訳ではなく、主因はミスマッチである。

高齢化(年齢、賃金カーブの粘着性)、パートタイマー化、パートタイマーの労働時間減少が全体として賃金の上昇を抑制している。
①産業間・職種間における労働力による労働需給のミスマッチ解消、
②税制改革などによる女性の労働参加率上昇、
③育児支援や建築現場における外国人労働者への依存度上昇、
④サービス業での技術革新進展等の帰結として、労働需給環境の改善や賃金上昇への期待はあるものの依然として不確実。まだまだ賃金インフレがもたらされるとはいえない。

 

3.消費税増税と個人消費

「増税後の消費の落ち込みは想定の範囲内」という政府・日銀のコンセンサスに疑問。2014年度の賃金上昇率はボーナス含んで+0.5%程度と高くはない。増税前の駆け込み消費は預金の取り崩しを伴い非常に大きいものであった。賃金の上昇という期待を前提に消費を前倒し。既述の通り足もとの賃金は横ばい、2015年度の賃金上昇率が高まる保証も無いという前提。
かくして、消費税増税で家計実質所得と個人消費は大幅減少すると見込む。つまりマイルドな消費の落ち込み、家計貯蓄率マイナス幅の拡大を今後想定する。
増税後の消費減退、円安による輸入物価高値安定という状況の中でも、期待インフレ率が上昇し、家計が貯蓄計画の狂いを無視するという非現実的な前提が無い限り、個人消費は大きく落ち込むのは必至。家計のインフレ期待は既にピークアウトしており、すでに家電価格、海外旅行価格の下落が始まっており買い控え現象が出始めている。’97年の消費税増税後と極めて似たトラックレコードを辿り始めている。

 

4.消費税増税後の日本経済

賃金上昇率が高まらない状態での消費税増税によって個人消費は大きく鈍化する懸念あり。安倍政権が推進する、社会インフラ投資拡大、原発、鉄道等インフラ関連輸出の増加、ビザ緩和等による訪日外国人の増加などのプラス材料を考慮しても、2014-15年度の実質GDP成長率はゼロパーセント程度になる可能性がある。この場合インフレ率はマイナスに転じ、期待インフレ率も低下、政府・日銀はデフレからの脱却を目指すものの、マクロ的な人口減少や悲観的財政状態を考えると、結果的にはマイルドなディスインフレが続くと見込む。
女性労働参加率の上昇、外国人労働者増加があっても生産性の飛躍的上昇が無い限り、成長率をプラスのトレンドにすることは難しい。かくて名目GDPがマイナスになれば税収は増えない。
消費増税をしても税収は上がらず、2018年度プライマリーバランスのプラス改善はおろか、2030年度までに国債費が税収を上回るという危機的な状況に陥るリスクが依然として高いことは無視できない。

以上

 

第 103回樫の会例会  日時:2014年5月20日(火)18:30~

配布資料:【無】

講師:松里 公孝 氏(東京大学教授)
演題:「ロシアのクリミア併合:現地の政治とロシアの戦略」


講師:松里公孝氏

(東京大学教授)


司会:藤原帰一氏

(東京大学教授)

 

2009年までのクリミア政治

 多民族空間であるクリミアでは、多極共存型民主政の伝統があり、諸政治勢力が不満を募らせない程度のポストと利権の配分を受ける。このような政治体制は、大胆なリーダーシップや社会改造とは矛盾する。
 2002年3月のウクライナ最高会議選挙で共産党の一党優位は終わり、多極共存型民主主義は強化された。
 2004年の勝利の後、ユシチェンコ大統領は、それまでクリミアが享受してきた、行政手続きや裁判でロシア語を使う権利を奪った。
 2006年のウクライナ最高会議選挙で地域党は勝利したが、同じ日に行われたクリミア最高会議選挙においては、地域党とロシア人政党の連合体は、有効票の33%しか獲得できなかった。その他の票は主だった政治勢力間でほぼ平等に割れた。
 2009年9月、地域党の名目的なクリミア指導者であったヴァシーリー・キセリョフは、代表職を辞し、ヤヌコヴィチを公然と批判しだした。そこで、ヤヌコヴィチは、かつてマキーイフカ市長であったヴァシーリー・ジャルティを地域党のクリミア「監督者」の地位に任命した。

 

クリミアにおける多極共存型民主主義の清算(2009-2013)

 2010年大統領選挙におけるヤヌコヴィチの勝利後、大方の予想に反して、ヤヌコヴィチはジャルティを、クリミア首相としてクリミア最高会議に推薦した。この屈辱の結果、ジャルティは、クリミアを「ウクライナの真珠」に改造することで、自分をアザロフ(首相)またはヤヌコヴィチ(大統領)の後継者として、ウクライナ政界に認めさせようと決意した。
 2010年3月、クリミア最高会議はウラジーミル・コンスタンチノフを議長に選出し、ジャルティの首相就任を承認し、ジャルティは巨額の政府投資を引き出した。
 2010年10月のクリミア最高会議選挙は、クリミアにおける多極共存型民主主義を清算した。議会選挙の結果地域党の議席数は急増したが、現地指導者は完全に入れ替えられた。
 2011年8月、ジャルティが死亡し、ヤヌコヴィチ大統領はアナトーリー・モギリョフをクリミア首相として推薦した。ヤヌコヴィチは、ジャルティに与えたほどの政府資金をモギリョフに与えることはできず、モギリョフは土着エリートに対してより宥和的となった。

 

エスノポリティクスにおける多極共存型民主主義の清算

 クリミアにおけるクリミア・タタールをめぐっては、三つの大きな争点があった。ひとつはクリミア・タタールが抗議行動の一環として行った土地占拠をどうするのかという問題、第二はシンフェロポリの中心部にモスクを建設する問題、第三はタタール住民の代表権をめぐる問題である。
 1991年、クリミア・タタールは民族自治体を形成し、その執行機関としてマジリスを選出した。マジリスは社会団体として法人登録することを拒否しており、マジリスが法的なステータスを有していないにもかかわらず、1999年クチマ大統領は、大統領付属でクリミア・タタール代表会議を設立し、2010年までマジリスはこの会議への代表を推薦する権利を独占した。
 2010年5月、キエフにおいて、ヤヌコヴィチはマジリスがクリミア議会で地域党と統一会派を形成するよう提案したが、ジェミリエフとチュバロフは拒否した。報復として、ヤヌコヴィチはマジリスに反対するクリミア・タタール指導者からもクリミア・タタール代表会議メンバーを任命し、マジリスの独占的代表権を奪った。中央レベルでの代表権問題では深刻な対立を抱えるものの、ジャルティ首相は、モスク問題でも、土地占拠問題でもスラブ系住民が不満を抱くほどにクリミア・タタールの顔を立てた。

 

2月26-27日のミステリー

 2013年12月から、クリミア最高会議議長ウラジミル・コンスタンチノフとクリミア首相モギリョフおよびマケドニア人の亀裂が次第に明らかになってきた。
 1月末にコンスタンチノフはモスクワを訪問し、おそらくこの頃からクレムリンはコンスタンチノフに注目し始める。
 1月末から2月初めにかけて、クリミアでは、若者を中心として「ストップ・マイダン」運動が発生し、自治体単位・社会団体単位の自警団が組織されるようになった。
 2月19日、キエフでの武力紛争の最中にクリミア最高会議は会議を持った。
 この会議の直後、コンスタンチノフはモスクワを訪問し、ロシア指導者層と会って、より親露的なクリミア政府を作るシナリオについて検討したであろう。しかし、ヤヌコヴィチが逃亡する以前のこの会合では、モギリョフ政府の打倒は、まだいくつかある選択肢の一つにすぎなかっただろう。ヤヌコヴィチ逃亡後の2月25日、ロシア下院の代表団が次期クリミア首相候補の最終的な首実験をやったと思う。執政経験は皆無だが、大衆政治家としては定評のあるアクショーノフで行こうという話になった。
 2月26日、最高会議前で多数のクリミア・タタールとスラブ人が対峙し統制不能となった。チュバロフはコンスタンチノフに、最高会議開会を延期せよと要求したが、コンスタンチノフは拒否した。異例の頑固さから、チュバロフは、コンスタンチノフが誰かに対する約束か恐怖心から動いていると感じた。コンスタンチノフは一旦執務室に去り、おそらくモスクワに電話をかけた後議場に降りてきて、本日の最高会議は流会にすると宣言した。
 2月26日の衝突の中で、スラブ系住民2名が死亡した。クリミア人の目には、キエフが政治的目的を達成するためにクリミア・タタールを使った、民族紛争を意識的に惹起したと映り、翌日クリミア人は歓呼してロシア軍を迎えたのである。
 2月26日の夜、プーチンはクリミア内政に干渉する決意をし、2月27日、ロシア特殊部隊に最高会議の建物を占拠させ、モギリョフの辞任を受けて、アクショーノフを新首相に選出した。

 

3月6日のミステリー

 3月6日、クリミア最高会議は、住民投票を3月16日に繰り上げること、質問項目は、ウクライナ‐クリミア関係が連邦化することを前提にウクライナにとどまるか、それともロシアへの領土的帰属替えを支持するかの間の二者択一とすることを決定した。
 その後クリミア最高会議代表団がモスクワを訪問し、コンスタンチノフはプーチンから「屋根に上らせておいて後ろから梯子を外す」ことはないという最終的な保証を得た。
 特徴的なのは、モギリョフ首相と数名の閣僚を除けば、クリミア政府機構の官僚たちは辞任も何の抵抗もなくロシア政府の支配下に移ったことである。

 

以 上

 

 

第 102回樫の会例会  日時:2014年3月10日(月)18:30~

配布資料:【有】

講師:後 昌司氏(東京短資株式会社専務取締役、前日本銀行仙台支店長)
演題:「震災後の東北経済の現状と課題」


講師:後昌司氏

(前日本銀行仙台支店長)


司会:鎮目雅人氏

(日本銀行)

 

東日本大震災から3年が経とうとしている折、昨年11月まで日本銀行仙台支店長を務め震災に遭遇した後昌司氏に、震災後の東北経済今日までの経済状況と課 題について解説を頂いた。併せて、震災直後の日本銀行・金融機関の業務継続がどの様に行われたのか、臨場感ある体験談も伺った。

 

講演内容

(東北経済の現状分析)
・マクロ的に見ると東北経済は震災直後の大幅な落ち込みから改善し、業況判断(DI)は全国を上回っている。最近では全国的に他の地域でも改善傾向が見受けられるものの、2011年第2四半期期以降約2年間は東北のDI改善が突出している。
・しかしよく見てみると、改善傾向は全産業に一様に見受けられる訳ではない。非製造業の改善は全国を大きく上回っているものの、製造業の改善度合いは全国並みに留まっている。
・更に詳しく見てみると、製造業の中では復興需要に関係する輸送用機械や窯業・土石関連は大幅に改善しているものの、食品加工などには復調に兆しは見られない。また、非製造業の中でも復興需要に関係する建設関連は大幅に改善しているものの、運輸などはコスト増で伸び悩んでいる。
・全般的には製造業の回復が依然著して弱く、自律的回復には繋がり難く、こうした傾向は今後も暫く続くものと見込まれる。
・まず、復興需要の中核を為す①公共投資と②住宅投資の現状を分析する。
①東北の公共工事を請負金額ベースで見てみると、震災前は月額1000億円程度であったものが、震災後のピークは4000億円程度、現在でも2000億円程度のボリュームとなっており、足元の既契約分で民需を含めて3兆円あまり(1年分強)の未消化工事のストックが生じている。不調などで契約できていない需要はその他に更にあるものと思われる。
地公体の公共投資予算は、県レベルでは震災前に2倍規模・市町村レベルではそれ以上に大きくなってきているが、人手が絶対的に不足しており執行能力が大きな問題となっている。東北6県の直近の有効求人倍率は1.1倍、宮城では1.33倍など需要が強くなっているが、例えば沿岸部の建設躯体工事では15.33倍にも達している一方、一般事務では0.33倍に留まるなど、職種別に見てみると深刻なミスマッチが生じている事が明らかである。
②もうひとつの牽引材料である住宅投資も高水準を継続しており、全国的には消費税増税後の揺れ戻しも懸念されているが、東北地方に関してはその懸念は少ないだろう。震災後19カ月の着工累計戸数は約10.8万戸で、震災前の約8万戸との比較で約2.8~3万戸の差があり、これが所謂被災関連需要であると分析できる。復興庁データを見ると、被災住宅の復旧実績件数は計画件数の半数にも至っていない。
・今後暫くは、復興需要(特に公共・住宅投資)は東北経済の熱源として景気を下支えする事は確実ではあるものの、これらがいずれ剥落する中で、その先の状況を懸念している。

 

(東北経済の課題)
・震災後、被災地の金融機関では預金が急増している。震災後1年をフェーズⅠとすると、その間は保険金収入などで個人預金が急増した。その後のフェーズⅡでは、原発事故補償がある福島を除けば個人預金の伸びは鈍化した。一方、公共投資の執行遅延に伴い公共預金が急増している。
・建設業を中心に既往債務の返済が進む一方、新規貸出は伸び悩んでいる。地元地銀は、公的資金を受け入れたものの、運用先・貸出先の需要が乏しく大幅に資金が滞留している。被災地の意欲ある事業者は、設備の復旧投資を終え事業再開を果たしものの、操業度を上げて運転資金需要が生じるまでには至っていない。適切な人材の確保・販路の拡大によって操業度を引き上げる事が必要な時期に来ている。
・更に言えば、東北では仙台への一極集中が一層進み、その他の地域では全国比の先を行く人口減少・高齢化が進行してゆく構造的問題を抱えている。
・これに対処する為には、労働力・中間財のミスマッチを埋めて行くミクロの努力が必要である。更に水産特区・空港運営PFIなどの規制緩和や、用途転用を含め将来を見据えた復興のビジネスモデルを描いてゆく事も肝要だ。目下、フローは潤沢な中、ストック再興は道半ばといった状況だ。

 

(講演では、上記内容の他、震災後社会不安を引き起こさない為の日本銀行・金融機関の業務継続努力についてのご苦労話も伺う事ができました。)

以 上

 

 

第 101回樫の会例会  日時:2014年1月27日(月)18:30~

配布資料:【無】

講師:隈研吾氏(建築家・東京大学教授)
演題:「場所の力」


講師:隈研吾氏

(建築家・東京大学教授)

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司会:坂村健氏

(東京大学教授)

 

講演内容

・建築はお金が無いと作れない。だからこそ世界の変化は建築の世界にいち早く表れる。(世の中の変化は、建築に影響を与える。)とりわけ大災害を契機として建築の世界は変わる。

・2011年の大震災で建築の世界は大きく変わったが、それ以前に歴史的に大きな転機になった災害は2つある。

(この点については、講演後の参加者からのQ&Aにて補足あり。
大災害は転換点であるだけでなく、加速点である。世の中にある問題点を露出させ、対応を加速させる契機でもある。大震災によって、日本社会が抱えていた弱さが露出し、その問題点を加速させた。それをうまく日本社会が取り入れていけるか。建築の分野で言えば、日本的デザインの良さを再認識させてくれ、東北の技術の素晴らしさを気づかせてくれた。それをどう生かしていくのかを考えていきたい。)

 

・1つ目はリスボン大地震(Lisbon Earthquake)
(1755年11月1日に発生した地震。世界人口が7億人であった時代に死者6万人以上という大きな被害を出した)
この災害で、神様は我々を守ってくれない。自分たちの手で自分たちの命は守らなければいけないという意識が生まれた。建築もこの災害を契機にここで大きく変わり、1780年代に建築の近代化(科学的アプローチ)が始まった。この後ヨーロッパ諸国の台頭が始まる。

 

・2つ目がシカゴ大火(Great Chicago Fire)
(1871年10月8日夜にシカゴ市内で発生した大規模火災)
この大火は多くの被害を出したと同時に、シカゴ市の再開発を進展させた契機として知られている。被災後、市は木造住宅を禁止したため、一気にコンクリートと鉄の建築が発展。後にシカゴ派といわれる建築家たちによる鉄骨造の高層建築物の建設ラッシュが始まった。これでアメリカは蘇り20世紀の大国へ。

 

・そして2011年3月11日の東日本大震災。
この大震災により建築や科学はもっと自然に対して謙虚でなければいけないということを教えられた。
史実としては、一方でリスボン震災後は隣国(仏国・英国)が力を増し、他方でシカゴ大火後は米国自身が再生し力を得た。2011年東日本大震災後の日本は、果たしてどちらのシナリオを辿るのだろうか。

 

・3.11から学んだ我々は何を作っていくべきか?
自然の前では建築は力がない。どうしたら自然の力に対応していけるのか?
と考えながらその答えの一つとして(様々な建築をご紹介)

 

KITAKAMI CANAL MUSEUM 北上川運河交流館 水の洞窟(宮城県石巻市)
北上川の土手に埋蔵されたミュージアム。単にコンクリートのボックスを地下に埋蔵するのではなく、川沿いの遊歩道と連続したトンネルの形状をしたミュージアム。
環境と一体化し、自然の力を実感できる場所とした。

 

Nakagawa-machi Bato Hiroshige Museum of Art 那珂川町馬頭広重美術館(栃木県那須郡)
安藤広重の作品を展示する美術館。できるだけ地元の素材で作ろうということで、石は近くの石切り場から、木材は地元の杉材を用いて作った。また、美術館の場所は南に奥州街道、北に里山という立地。普通は街道側に正面を向けるが、神社がある里山側に美術館を向けて設計をした(里山崇拝)。自然の循環、地元内での経済循環により町が強くなる。これが地元の持つエネルギーの循環であるという考えで作った。20世紀のやり方から次のやり方への模索である。

 

Adobe Stone House安養寺木造阿弥陀如来坐像収蔵施設(山口県豊浦町)
山口県豊浦町安養寺の境内にたつ、12世紀の木造阿弥陀如来 (重要文化財) の収蔵施設。地元に古くから伝わる日干しレンガ (アドベ) 工法を再現し、日干しレンガを積み上げて外壁を作った。日干しレンガは高温で焼かずに、調湿・調温機能を有するので、空調機械を設けず、素材そのものによる環境の制御という考え方を採用した。

 

・フランク・ロイド・ライトも帝国ホテル設計に際し、日本独自の素材である大谷石を使った。日本の風土には日本の素材が適するという考えを持ったから。

 

竹屋 Great(Bamboo)Wall(中国)
Bamboo House(竹の中の空洞を補強して使用した作品・神奈川・2000年)の経験を生かし、当時は創業期であったSoho Chinaというデベロッパーからの依頼を受けて手掛けた作品。「中国は自然を大事にしている」というメッセージ性を込めて、再度素材として竹を使った。
シャープのアクオスのCMでも使われた有名な作品であるが、これの作品を契機に中国で様々な建築の話をいただくきっかけになった作品である。

 

CHIDORI
ミラノの城の中のパビリオン。飛騨高山の伝統技術である「千鳥格子」の原理を用いた。慶應義塾の学生達の協力を得て5日間で完成させた。
六センチ角の木を組んで組たてるもの。日本の木造技術は世界一である事を示した作品。
なお、日本の木造技術の活用という意味では、他にも愛知(春日井)の「木組みの家」(壁厚2メートル・3階建て)や、梼原の「木橋ミュージアム」などの作品がある。

 

Marche Yusuharaマルシェ・ユスハラ(高知県高岡郡)
まちの駅「ゆすはら」は地場産材を取り扱う市場と小さなホテルの複合施設。通常はない用途を組み合わせることで新たな町民のコアを創造しようという試み。

 

・梼原町は街道に沿って数多くの茅葺屋根の「茶堂」と呼ばれる旅人用の休憩施設で知られている。茶堂は単なる休憩用の東屋ではなく、旅人に対して無料で茶を提供する交流文化施設であった。今回の施設も茶堂の文化的伝統を継承しようとする試みの一つであり、茶堂にゆかりのある茅という素材を用いたのも、その理由による。

 

Starbucks Coffee at Dazaifutenmangu Omotesando スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店(福岡県太宰府市)
太宰府天満宮参道にたつコーヒーショップ。細い木の材料をダイアゴナルに織りあげる特殊な木構造システムによってその町並みと調和し、人々を奥へと引き込む構築物を作ることができた。この工法は日本でしかできないもの。

 

Asakusa Culture Tourist Information Center浅草文化観光センター(東京都台東区)
木造平屋の雰囲気で中層建築物を作れるかに挑戦。メインの構造は鉄骨で仕上げは木で。屋根に対するあこがれ、落ち着くという感覚は本当だと感じられる建築物になった。

 

Nagaoka City Hall Aoreアオーレ長岡(新潟県長岡市)
この施設の構想の特徴は駅からつながっていること。20世紀の公共建築は、都市の成長、規模の拡大に応じて、郊外へ移動し、結果として街中がさびれていくと悪循環となっていた。アオーレ長岡では町の中心部をにぎやかにしたいと考えた。
「土間」という提案。広場でなく土間。雪国でも人が集まってくる場所。床は土にした。結果、市民がものすごく集まる場所になった。子供達が宿題をしに来る場所になり、老人は病院ではなく、ここで友達に会える場所になった。人がいて楽しい市役所。賑わいがずーっとつながる場所となった。人を集める仕組みとしてNPOをどの様にして巻き込み活用するかを考えた。運営には市職員もかかわらず、NPOに任せるのが良いと考えた。議会も1階に持ってきた。最初は通常最上階にある議会を1階にするなど何事かと怒られたが、開かれた議場が必要だと説明。今では好評を得ている。市役所の窓口等も越後和紙や紬を使うことで地域とのつながりを持っている。建築資材は、現場から半径15km以内で調達できる物に限定した。

 

東京大学大学院(本郷)情報学環学術研究棟
デジタル・アーカイブの機能を有する作品。杉板や土などの自然素材を用い、暖かみと自然に溶け込むデザインとした。日本を代表する左官職人、挟土秀平氏の手により「土のメッシュ」(透過性のある特殊な土壁)を実現し、日本庭園と建築との融合を図った。

 

KABUKIZA歌舞伎座
歌舞伎座だけでなく、周辺全体を芝居町にしたいと。パブリックとなるスペースをどう作っていくかが自分のテーマであった。町全体をWalkable にし、芝居町に行くという感覚で行く場所にしたいと考えた。結果的に銀座に着物の女性が増えたと言われている。

 

Besancon Art Center and Cite de la Musique
ブサンソン芸術文化センター(フランス ブサンソン)
ブザンソンはフランス東部の都市。市の中心部を流れるドゥ川の河岸の敷地に、複合的文化施設を作った。美しい河岸に、木で作られた、大きな屋根をかけ、この屋根の下の隙間は、都市と自然(ドゥー川)とをひとつにつなぎ直す役割をはたしている。建築は孤立したオブジェであってはならず、自然と人間をつなぐ媒介であるという考えで、Public Spaceを特に重要な要素として認識した作品である。

 

FRAC Marseille
マルセイユ現代美術センター(フランス マルセイユ)
マルセイユの地場の材料であるリサイクルガラスを活用し、半屋外の軽く町に開かれた空間を演出した。建物の中よりも半屋外のスペースに人々が集まる構造。

 

Granada Performing Arts Center
アルハンブラ
グラナダ(スペイン語でざくろの意味)をイメージしたデザインで設計。アルハンブラ宮殿観光を済ませた来訪者たちが日帰りせずに、町に夜まで留まってくれる町を作りたいとのことで1500人規模のオペラハウスの計画。
50席をひとつの蜂の巣状のブースで括り、それを組み合わせて行くハニカム構造でオペラハウスを造る構想。

 

V&A at Dundee (ビクトリア&アルバートミュージアムのスコットランド分館)
川の中に作って、町の人の流れを一気に持ってくる計画。川と町をつなぐPublicとなる性格を持たせたデザイン。「石の崖」の演出。ホワイエを大きくして、階段状の床に座らせる工夫をした。

 

・その他、少林寺の再生(禅宗発祥の地)なども含め世界15か国で取り組まれてきたプロジェクトについてご説明があった。日本の文化的ノウハウ(時として日本人にとって当たり前だと思われているもの)の中に素晴らしい価値があるとの指摘がなされた後、参加者から活発な質疑応答がなされた。

 

以 上

 

第 100回樫の会例会(慶應義塾読書会合同)日時:2013年11月15日(金)18:30~

配布資料:【有】*ご希望の方は事務局までご連絡下さい。

テーマ:「財政改革と日本経済の将来」
討論者:植草 一秀 氏(スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役社長)
討論者:土居 丈朗 氏(慶應義塾大学教授)
討論者:吉川 洋 氏 (東京大学教授)                (五十音順)

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討論者:植草一秀氏

(スリーネーションズリサーチ(株)
代表取締役社長)

討論者:土居丈朗氏

(慶應義塾大学教授)

討論者:吉川洋氏

(東京大学教授)

討論の様子

会場の風景

 

講演内容

まず吉川氏が、財政の現状と課題について以下のような事実を示された。

税収入より国債発行額が多いのは平時としては異例である
社会保障関係費は年間1兆円程度の自然増が避けられない
国債費、社会保障費、地方交付税交付金で歳出の75%を占めるため裁量的支出の余地が少ない
内閣府の見通し(今年8月発表)では消費税を10%にしても2020年までのプライマリーバランスの黒字化は困難である
今月格下げされたフランス(政府債務)の公債GDP比率95%に比べ日本は既に200%に近い高い水準。

続いて土居氏が消費税率引き上げの必要性について、以下の主張をされた。

社会保障については世代間格差が顕在化しており、若年層の不信感を払拭する必要がある
国債発行の抑制、長期金利の急騰回避が必要である
税収弾性値は1.1程度であり、経済成長による税収増はそれほど大きくない
経済成長を阻害しない税制としては消費課税が最も優れている
理想的な累進課税は所得税だけでは完成せず、消費税と税額控除に基づく給付を組み合わせる必要がある
アベノミクス3本の矢を成功させるには「弓」として財政健全化が急務。

次に植草氏が消費税増税に反対するとして、以下の主張をされた。

平成以降、法人税収・所得税収は減少しているが消費税収は増加しており、より応能負担とすべき
1997年度と2001年度は緊縮予算が、2007年は消費増税が景気の悪化をもたらしたのであり(政策逆噴射)、2012年度補正予算が剥げ落ちる来年度予算でさらに増税をするのは景気悪化を招く(6兆円を超える2014年度日本版「財政の崖」)
クリントン政権が財政再建できたのは、任期前半で経済拡張を後押しした成果が任期後半に顕在化したのであり、日本もまずは経済拡大を目指すべき
2009年度のばら撒き補正や、日本の一般政府のバランスシートは資産と負債がほぼバランスしていることを見れば、今すぐ増税が必要なほど財政は切迫していないと考えられ、財務省は意図的に危機感を煽っている

その後討論・質疑に移り、吉川氏と土居氏は以下の意見を示された。

1997年と2000年の景気悪化は日本の金融危機が主因であり、2008年の景気悪化は世界的金融危機に加えてアジア通貨危機が主因である(消費増税、緊縮財政策だけが要因ではない)
経済成長だけではプライマリーバランスの黒字化はできない
ばら撒き予算に無駄が含まれていることは認めるが、大きな額ではない
バランスシート上の一部の資産は社会保障支出に当てることが決められており、負債とネッティングすることはできない
先進諸国においても財政問題の主因は社会保障支出である
経済成長を重視すべきであるが、消費税率は引き上げ後もEU諸国より低率であり、日本人が税金を充分に支払っていない状況をまず改めるべきである

また植草氏は、以下の意見を示された。

公債残高の対GDP比率を単年度で大きく下げるのは危険であり、国内でファイナンスされている状況であれば、対GDP比率が発散しなければ良しとするべき
1997年の経済危機をもたらした際の国民負担増はGDP3%相当であり、来年度の消費増税と2012年度補正の剥げ落ちを合わせるとGDPの3%に相当するので危険な水準である
歳出の無駄をカットするだけでは財政再建できない点は同意するが、国民に範を示すためにも天下り根絶や「わが身を切る改革」が必要である

 

以 上

 

第 99回樫の会例会  日時:2013年9月26日(木)18:30~

配布資料:【有】*ご希望の方は事務局までご連絡下さい。

講師:深尾光洋氏(慶應義塾大学教授)
演題:「日本の財政バランスと債務危機のリスク」


講師:深尾光洋氏

(慶應義塾大学教授)


司会:大山道広氏

(慶應義塾大学名誉教授)

 

講演内容

・日本の財政の役割について、国民に必須の公共サービスの提供をする歳出サイドと、税、社会保険料、国債借入等の歳入サイドのバランス。政府の分類は、中央政府、地方自治体、社会保障基金の3つに分類され、これが一般的にいう財政収支(赤字)の対象となるもの。(P2)

・政府の支出は公務員給与等の政府消費プラス公共事業等の政府投資プラス、医療費等民間消費の肩代わりプラス移転支出の合計。税を中心とする政府収入では賄うことができず、2011年度基準で43兆円のマイナス。これを国債等の借入による収入で補てんしている。GDP比9%の赤字。90年代初めよりこのプライマリーバランスは大幅なマイナス状態が続いている。(P4)

・このため政府債務はGDP比総債務で40%近く、純債務で20%近くに急増。(P5)

・これに対し経済財政諮問会議の中期財政計画目標(今年8月に発表)は、2015年度までにプライマリーバランスの赤字をGDP比3.3%にまで引き下げ、金額にして17.1兆円の赤字まで削減、2020年度までにバランス黒字化を達成。尚、経済の前提として消費者物価上昇率2%、実質GDP成長率2%強を見込み、消費税は5%の増加が前提。(P6)しかしながら、米国経済と比較しても2023年度に2.3%の成長を見込むのは極めて楽観的で甘い数字。最大のポイントは労働力人口の増加率の違い。足元、米国は年1%増に対し日本は年1%減であり米国の成長率2.4%と比較しても2023年度2.3%の成長を期待するのは楽観的すぎる。(P7,8)

・黒田日銀が設定した2%のインフレ目標を2,3年で達成するのは極めて難しい。2008年のリーマンショック後の1次産品価格の上昇でインフレ率アップの現象が発生した以外基本的にデフレは継続中。最近のインフレ傾向は円安による輸入品の値上がりによるもの。(P9,10)

・日本の中期的な潜在成長率はぜいぜい0.5%から1%程度。その最大の理由は毎年1%近く減少する労働力人口の減少。特に出生率1.4程度では人口そのものが減少してゆくことになり、70年間で半減する計算。大量の移民政策をとるしかない。因みに女性の社会進出を推進しても労働力人口の減少を食い止める効果は少ない。(P11,12)

・消費税の5%上げ程度では政府債務の安定には繋がらない見込み。試算では消費税1%引き上げで税収は0.5%増加。また、長期金利の低下状態を解消することで政府債務の利払いは上昇する見込み。(P13,14)

・政府債務GDP比率安定のためには消費税を25%以上にまで上げる必要あり。(P15)

・日本の歳出GDP比率は米国より高くむしろ欧州型。欧州危機の例を見ても、日本の財政出動のリスクはきわめて大きい。国債金利が2%上がると政府債務の金利負担は消費税6%の上昇。財政危機から金融危機を招き実体経済の悪化に繋がるリスク大。しかも日本の政府債務バランスはGDP比率でギリシャを越えるレベル。(P16,17,18,19,20)

・しかし、日本は対外純資産の3分の1が外貨準備であり、仮に資本逃避が起きても通貨安メリットが発生。ゼロ金利政策の継続で足元の長期金利も安定。しかしながらリスクは抱えたままであり、プライマリーバランスの改善が急務。(P21)

・日本の財政破綻のMost probablyなシナリオは欧州危機の例に倣って、財政危機から金融危機と経て最後は実態経済の悪化というシナリオが予想される。(P22,23,24)

・量的、質的金融緩和の円安、株高へのアナウンス効果はある。消費税の段階的増税はある程度の景気刺激効果あり。ただし増税幅は大幅に不足。補完的な策として炭素税の段階的導入、資産税課税の強化等が考えられる。(P25)

・構造的な労働力人口の低下を防ぐために、大胆な移民増加政策を導入すべき。(例えば日本語検定試験1級合格者に自動的に永住権付与するなど)

・消費税を毎年2%上げて、最終25%まで持っていくというのも非現実的な考えとは言い切れないのではないか。

 

以 上

 

第 98回樫の会例会  日時:2013年7月23日(火)18:30~

配布資料:【有】*ご希望の方は事務局までご連絡下さい。

講師:雨宮正佳氏(日本銀行理事)
演題:『新しい金融政策─「次元の違う」金融緩和の挑戦と課題』


講師:雨宮正佳氏

(日本銀行理事)


司会:鈴木淑夫氏

(鈴木政経フォーラム代表)

 

講演内容

・今回は2000年、2006~2007年に次いで3度目のデフレ脱却のチャンスである。前々回はITバブル崩壊、前回はリーマン危機が起こりデフレ脱却はならなかった。

・(P1)過去の金融政策では、I期にゼロ金利、Ⅱ期に量的緩和、Ⅲ期に資産買入という新たな手段を導入してきたが、今回は「市場の期待を変えることができるか」がポイントとなる。昨秋の時点でマイナス金利の導入も検討したが、短期金融市場の流動性が枯渇するデメリットと、マイナス金利によるメリットを比較した結果、今回は導入を見送った。

・(P2)新たな金融調節手段では長期国債保有残高を年間50兆円増加させることとなっているが、満期償還分の買い直しが30兆~40兆円あるので、買入額としては80兆~90兆円となり、年間130兆円の新発債の70%程度を買うことになる。これは市場にかなりの影響を与える規模である。これによるベースマネーの増加によって、比較的に敏感な市場・指標(物価連動債、為替、株式等)が最初に反応し、タイムラグを伴ってCPIや家計の行動が反応することを想定している。

・(P4)金融政策が金利や資産価格に働きかけたり、ポートフォリオリバランス効果を経由して実体経済に影響を与えると考えるのは伝統的な考え方であるが、今回は市場・経済主体の期待(予想)に働きかけることにより実体経済を改善したいと考えている点が従来とは異なる考え方である。

・(P5~7)過去のデータでは、CPIを+2%以上にするためには需給ギャップが6%以上にならなければならず、これを2年間で達成することは難しい。市場の期待に働きかけ、フィリップス曲線を上方シフトさせる(期待インフレ率を上げる)ことができれば、需給ギャップが(実現可能性のある)2%の水準であってもCPIを+2%とすることができるかもしれない。実際に最近のデータを見ると、予想物価上昇率は上ブレしているように見え、市場のインフレ期待は以前よりも高まっていると思われる。

・ (P8~10)異次元緩和後に日本の長期金利は上昇したが、米独の長期金利が4月以降大きく上昇したことを考えれば、日本は比較的低位に留まっている。これは日銀の国債買入が、リスクプレミアムの抑制を通じて円金利の上昇を抑えたからと考えられる。

・ (P11)日米の金融当局は、名目金利と予想物価上昇率の差である実質金利を下げ、それが実体経済の改善に波及することを目指している。米国は期待インフレ率が安定しているので、名目金利を下げることで実質金利を下げた。日本は名目金利が下げられず、流動性の罠の状況に近いので、期待インフレ率を上げることで実質金利を下げることを目指す。そのための手段が異次元緩和である。

・ (P12~13)物価は上がるが賃金は上がらないと言う状況は望ましくないが、過去のデータでは物価と賃金はほぼ同じように動いている。現状では所定内賃金の上昇には至っていないが、ボーナスの増額もあり名目賃金はほぼ横ばいの水準まで持ち直してきている。

・(P14)今後の課題は以下の4点。

⇒実体経済の改善につながるか、という課題については、期待の変化に市場が反応し、ポートフォリオリバランス効果が発揮されて民間の資金が国債から他の資産に振り替わる必要がある。銀行貸出残高の増加、投信販売額の増加、GPIFの運用方針見直し等、足元ではその兆しがある。

⇒財政健全化の道筋確保については、日銀の国債買入が財政ファイナンスと看做されないよう注意していく必要がある。

⇒マーケットの安定確保については、国債買入の手法を更に検討し、市場との対話に留意する。  
⇒出口戦略についての検討はいずれ必要となるが、現時点で検討することは市場の期待を変えるためには時期尚早である。

 

以 上

 

第 97回樫の会例会  日時:2013年5月27日(月)18:30~

配布資料:【無】

講師:植田和男氏(東京大学大学院経済学研究科教授)
演題:「アベノミクスと金融政策・中間評価」

日本銀行政策委員会審議委員歴任者としてゼロ金利政策・量的緩和政策の導入に立ち会った植田和男氏に、安倍政権下における金融政策が資産価格の動きにどの様な影響を与えているかについて、実証分析に基づき解説を頂いた。


講師:植田和男氏

(東京大学教授)


司会:深尾光洋氏

(慶應義塾大学教授)

 

講演内容

・非伝統的金融政策が、経済に必ずしも強力な影響を及ぼさないとする理論的実証的知見と矛盾して、実際にはFirst Money Investors( ヘッジファンドを含む外国人投資家)の反応は大きいものがあったと認められる。

・今後の展開については、債券市場の動揺・米国が金融引締政策に転じる懸念・インフレ目標達成の可能性について注視する必要がある。

・短期金利ゼロ後の非伝統的金融政策の類型
(1)Communication Tools(時間軸政策=将来の金利を中央銀行が市場に約束する)
(2)Balance Sheet Tools(LSAP=Large Scale Asset Purchases)   
 LSAP1:金融市場ストレス下での中央銀行によるCP市場等での資産
      (主として中長期債)の大量購入
 LSAP2:正常市場下での中央銀行による上記大量購入   
 Pure QE:当座預金目標・ベースマネー目標

・流動性のワナから脱出して以降もMoney Supplyを続ける(マネー回収をしない)政策は、時間軸政策そのものでもある。

・実証データによる確認

 ・昨今の日米市場では、ベースマネーを増やしてもCPIは一切反応していない。
 (’60-’85年代の米国市場には一定の相関関係が認められた。)

 

(米国)

・’08-’11.8の米国市場では、LSAP1は、10Y Treasury(債券価格), S&P500(株式市場), USD/JPY(為替市場)に影響を与えた。

・’11.8-’12.12の米国市場では、LSAP2は、さほど上記3市場に影響を与える効果が無くなってきたものの、効果があったと勘違いしている市場関係者が大多数を占めた。

・QE後の昨今の米国市場では、High Yield CB(高リスク商品)が買われている。

 

(日本)

・福井総裁時代のLSAP1, LSAP2は3市場への影響があった。

・白川総裁時代のLSAP1はさほど影響がなかった。

・黒田総裁時代に入ってからのPure QEは株式市場・為替市場への影響は顕著だが、債券市場(長期金利)への影響の有無については、より詳細に投資家の行動原理等を検討する必要がある状況である。
→・民主党政権から安倍政権へ政権交代のダミーの有効性をどう考えるべきか。  
 ・’12.11以降、日本の株式市場では外国人投資家のみ買越しが続いている。  
 ・他方、国内投資家は対照的に遅れて抑制的に参加している。  
 ・4月4日の日銀会合で異次元の量的・質的金融緩和政策が打ち出されて以降のJGB市場ではDuration Riskを取る投資家行動が認められる。
 ・「2年後に2%のインフレ率を達成する」という「約束」は、時間軸を大きく短縮する結果を生んでしまった。即ち、Time Lagを考えれば、そろそろ金融引締めも有り得ると市場は理解した。急激な金利上昇はリバランス効果としてはマイナスに作用してしまう。
 ・5月23日の株式市場の暴落(調整)は、外国人投資家が「日銀は長期金利の上昇を抑え込めないのではないか」と、中央銀行のマネジメント能力に懐疑的になった事に起因している。

 

・現状、インフレ期待は生じておらず、「2年後に2%のインフレを達成する」のは、かなり難しいだろうと認識している。’01.3のQE後も一時、期待は大きく変化したものの、実体経済が付いてこなかった為、期待は徐々にしぼんでしまった。

・LSAP2が市場機能を低下させるリスクや、インフレがターゲットとする範囲内に  収まらなくなるリスク、財政の維持可能性への懸念が日本売りに繋がるリスクなど、政策の副作用についても、同時に注意を要するものと認識している。

 

以 上

 

第 96回樫の会例会  日時:2013年3月19日18:30~

配布資料:【有】*ご希望の方は事務局までご連絡下さい。

講師:奥野正寛氏(流通経済大学教授・慶應義塾大学特任教授)
演題:「マーケット・デザイン」


講師:奥野正寛氏

(流通経済大学教授)


司会:坂井豊貴氏

(慶應義塾大学准教授)

 

講演内容

2012年のノーベル経済学賞は、マーケット・デザインにおける安定マッチングに関する理論と実践が評価され、米ハーバード大学のAlvin E. Roth氏と、米UCLAのLloyd S. Shapley氏が共同受賞した。Shapley氏は協力ゲーム理論を用い、安定マッチングを作り出すGale-Shapleyアルゴリズムを、同僚の故David Roth氏と構築した。今回の例会では、Shapley氏と親交の深い奥野氏により、今日、新たな経済学の潮流として注目されるマーケット・デザインの概要について、結婚問題・研修医マッチング・臓器移植マッチング等を例に、マッチング・ゲームを中心に講演頂いた。
伝統的経済学が念頭に置いてきた「合理的で利己的な人間像」だけでなく、「妬み」「公正」「他人との比較」等心理学的側面を経済学に取り込みつつ、アルゴリズムの活用によって最適かつ安定的なマッチングを瞬間的に求める事ができる点が、同理論が社会にもたらした最大の功績であると評価されている。

 

 

第 95回樫の会例会  日時:2013年1月29日(火)18:30~

資料配布【無】

講師:大谷 信義 氏 (松竹株式会社代表取締役会長)
演題:「歌舞伎と歌舞伎座のはなし」


講師:大谷信義氏

(松竹株式会社会長)


司会:渡辺保氏

(演劇評論家)

 

講演内容

陽春四月に新しい歌舞伎座が開場されます。このおめでたい春に因み、松竹株式会社・大谷会長から歌舞伎・歌舞伎座の歴史と明日への展望をお話しいただきました。
既に懐かしい劇場の全貌が姿を見せ、?落しはもうすぐです。待ってました!

 

 

第 94回樫の会例会  日時:2012年11月21日(水)18:30~

講師:藤原帰一氏
(東京大学教授)

資料配布 【有】 ※ご希望の方は事務局までご連絡下さい。

講師 : 藤原 帰一 氏 (東京大学教授)
演題 :「アメリカ政治と中東政策」

 

 

講演内容

はじめに

ガザ攻撃とアメリカ/ネタニヤフとオバマ/イラン危機/リビアとシリア

 

1. 中東政策の構図 中東政策の目的と手段

(1) 目的  原油供給の確保・イスラエルの安全・テロリズムの排除
(2) 手段  1) 力の均衡 キャンプデービッド枠組み
2) 治安介入 レバノン介入・湾岸戦争
3) 政権打倒 イラク戦争

 

(3) 中東政策の展開 大戦後アメリカの中東政策
(ア) 東西冷戦と中東 ナセル革命から第四次中東戦争まで
(イ) 急進イスラムへの対抗 キャンプデービッド/イラン革命/レバノン
(ウ) 二つのイラク戦争 湾岸戦争/オスロ合意/イラク戦争

 

(4) 中東和平の挫折 パレスチナ問題とアメリカ
(ア) パレスチナ暫定統治の動揺 ハマスの台頭とイスラエル政治・レバノン侵攻
(イ) オバマ政権とイスラエル アフリカ系とユダヤ系・ネタニヤフとオバマ
(ウ)ガザ侵攻とアメリカ PLOの凋落・トルコ/エジプトとイラン

 

(5) 破綻国家と介入 アラブの春とアメリカ
(ア)エジプト民主化の意味 民主化から選挙へ・ムスリム同胞団とアメリカ
(イ) リビア介入と破綻国家 保護する責任・リビア介入・大使館襲撃
(ウ) シリア内戦とアメリカ ロシア・イラン・シリア シリア難民とトルコ

 

結び

 

1947 パレスチナ分割決議
1948 イスラエル独立/アラブイスラエル戦争
1952 エジプト革命 (1954 ナセル大統領)
1956 スエズ危機
1967 六日間戦争。イスラエル、シナイ半島・ヨルダン川西岸などを制圧
1973 第四次中東戦争
1975-90 レバノン内戦
1978 キャンプデービッド合意
1979 イラン革命
1982 イスラエル、レバノン侵攻
1987-90 第一次インティファーダ
1991 湾岸戦争
2000 イスラエル軍、レバノン撤退
2003 イラク戦争
2005 シリア軍、レバノン撤退
2006 イスラエル、レバノン侵攻
2008 イスラエル、ガザ地区攻撃
2010- アラブの春

司会:鈴木淑夫氏(経済学博士(東京大学)・元衆議院議員)